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「わたしぃ別件で手がいっぱいでぇ~、鈴木さんならやり方分かってるし、大丈夫ですよねぇ?」
きゃらきゃらした声がザクリザクリ耳に引っかかる。
キャラメル色の髪を念入りにコテで巻き、舞台化粧みたいなツケまつ毛、新作コスメで男受けを狙ったメイクに胸元を強調したゆるふわコーデでバッチリ、キメている。
・・・・・・そして、念入りに吹きかけたのだろう。
甘ったるい香水の匂いがプンプンしている。
(わたしとは正反対)
「お願いできますかぁ~?」
顎に手を当て、首を傾げながら見下ろしてくる。
意味ありげに動かす指先の爪は、きらきら光るビジューとバラの花が盛られていた。
「はい、やっておきますね」
「さっすがセンパイ‼頼りになるぅ~‼じゃっ」
茶封筒を机に置くと彼女はヒールを鳴らしながらさっさと自分の机に戻って行った。
封筒の中身を確認すると、去年の日付の書類ばかり。
枚数は大したことないが、ひとつひとつの作業に時間が掛かる。
みつ子は心の中で盛大な溜息をついた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
九時五分前、同期の佐藤が目の前の席に腰を下ろす。
「また尻ぬぐい?」
「はぁ、まぁ・・・・・・」
「別に引き受けたのは鈴木さんだから構わないけど、なんでもホイホイ引き受けるのは微妙」
彼はPC用メガネにかけ直しながら言う。
みつ子には高野からの頼みを、特に断る理由もないし、できないことでもない。
(なんとか終わらせられるかな)
手元の封筒から顔を出してる紙の列を見ながら自問する。
「あっ」
手前からスポーツタイプの腕時計をした手が伸び、封筒をさらっていく。
佐藤は適当に半分書類を抜くと、残りを返してきた。
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