第一章 散る徒花

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「わたしぃ別件で手がいっぱいでぇ~、鈴木さんならやり方分かってるし、大丈夫ですよねぇ?」  きゃらきゃらした声がザクリザクリ耳に引っかかる。  キャラメル色の髪を念入りにコテで巻き、舞台化粧みたいなツケまつ毛、新作コスメで男受けを狙ったメイクに胸元を強調したゆるふわコーデでバッチリ、キメている。  ・・・・・・そして、念入りに吹きかけたのだろう。  甘ったるい香水の匂いがプンプンしている。 (わたしとは正反対) 「お願いできますかぁ~?」  顎に手を当て、首を傾げながら見下ろしてくる。  意味ありげに動かす指先の爪は、きらきら光るビジューとバラの花が盛られていた。 「はい、やっておきますね」 「さっすがセンパイ‼頼りになるぅ~‼じゃっ」  茶封筒を机に置くと彼女はヒールを鳴らしながらさっさと自分の机に戻って行った。  封筒の中身を確認すると、去年の日付の書類ばかり。  枚数は大したことないが、ひとつひとつの作業に時間が掛かる。  みつ子は心の中で盛大な溜息をついた。 「おはようございます」 「あ、おはようございます」  九時五分前、同期の佐藤が目の前の席に腰を下ろす。 「また尻ぬぐい?」 「はぁ、まぁ・・・・・・」 「別に引き受けたのは鈴木さんだから構わないけど、なんでもホイホイ引き受けるのは微妙」  彼はPC用メガネにかけ直しながら言う。  みつ子には高野からの頼みを、特に断る理由もないし、できないことでもない。 (なんとか終わらせられるかな)  手元の封筒から顔を出してる紙の列を見ながら自問する。 「あっ」  手前からスポーツタイプの腕時計をした手が伸び、封筒をさらっていく。  佐藤は適当に半分書類を抜くと、残りを返してきた。
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