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(どうかこっちに来ませんように)
「鈴木さんもどうぞぉ、さっきのお礼にぃ」
みつ子の祈りむなしく、高野がトナリにやって来た。
おかずの匂いが甘ったるいニオイに変わる。
「あぁ~ッ‼ごめぇんっ‼女のコ全員に買ってきたハズなのにぃ~」
「いえ、甘い物苦手なので・・・」
「じゃぁ丁度良かったよねぇ~。苦手なモノあげたら逆にシツレイだよね~?鈴木さん毎日お弁当持ってきてるよねぇ~?」
(早く、居なくなってくれないかな)
無言で、きんぴらごぼうを小さく咀嚼して、彼女の興味が無くなるのを待つ。
「なんか地味ぃ~‼せっかくなんだからぁ、もっと可愛くしないとぉ女子力下がっちゃいますよぉ?」
(余計なお世話)
ムッとしつつも奥歯のきんぴらごぼうに集中する。
「あっ、でもぉ鈴木さんはこれ以上下がりませんよね~」
それを最後にきゃらきゃら声が離れた。
貴重な昼食時間の十分が潰れ、おかずは甘ったるい香りで味が分からなくなった。
「美味しいー」
女子社員の声が上がる。
高野が手にしている紙製の箱に記載された内容量の個数は五個。
みつ子を入れると職場の女子社員は六人だ。
(わたしもチョコレートは好物ですよ)
甘ったるいニオイを嗅ぎながらみつ子は弁当を食べ終えた。
遠くの空はグレーの雲がもやもやと立ち込めていた。
午後の業務が開始すると、課長机の電話が鳴った。
「あぁっ、お世話様になりますー‼いえいえ・・・・・・。とんでもない‼ハイ‼こちらからお伺い致しますので~。ハイ、ハイ、失礼致します。今後ともどうぞ、よろしくお願い致しますー」
「鈴木君、二早社に書類取りに行ってくれ‼」
ガチャリと受話器を置いた課長の声が、みつ子の右耳を叩いた。
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