第一章 散る徒花

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(どうかこっちに来ませんように) 「鈴木さんもどうぞぉ、さっきのお礼にぃ」  みつ子の祈りむなしく、高野がトナリにやって来た。  おかずの匂いが甘ったるいニオイに変わる。 「あぁ~ッ‼ごめぇんっ‼女のコ全員に買ってきたハズなのにぃ~」 「いえ、甘い物苦手なので・・・」 「じゃぁ丁度良かったよねぇ~。苦手なモノあげたら逆にシツレイだよね~?鈴木さん毎日お弁当持ってきてるよねぇ~?」 (早く、居なくなってくれないかな)  無言で、きんぴらごぼうを小さく咀嚼して、彼女の興味が無くなるのを待つ。 「なんか地味ぃ~‼せっかくなんだからぁ、もっと可愛くしないとぉ女子力下がっちゃいますよぉ?」 (余計なお世話)  ムッとしつつも奥歯のきんぴらごぼうに集中する。 「あっ、でもぉ鈴木さんはこれ以上下がりませんよね~」  それを最後にきゃらきゃら声が離れた。  貴重な昼食時間の十分が潰れ、おかずは甘ったるい香りで味が分からなくなった。 「美味しいー」  女子社員の声が上がる。  高野が手にしている紙製の箱に記載された内容量の個数は五個。  みつ子を入れると職場の女子社員は六人だ。 (わたしもチョコレートは好物ですよ)  甘ったるいニオイを嗅ぎながらみつ子は弁当を食べ終えた。  遠くの空はグレーの雲がもやもやと立ち込めていた。  午後の業務が開始すると、課長机の電話が鳴った。 「あぁっ、お世話様になりますー‼いえいえ・・・・・・。とんでもない‼ハイ‼こちらからお伺い致しますので~。ハイ、ハイ、失礼致します。今後ともどうぞ、よろしくお願い致しますー」 「鈴木君、二早(にはや)社に書類取りに行ってくれ‼」  ガチャリと受話器を置いた課長の声が、みつ子の右耳を叩いた。
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