勝ちの価値を求める不毛な激闘

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「そんなわけでね、練習しようと思うんだ。君と」 「は? なんだ、突然。なんの話だよ」 「なにって、決まってるでしょ。ギャンブルだよ、ギャンブル。勝ちぐせをつけるために、勝負してほしいんだ。君に勝つことで勝ちに慣れて、僕は次こそ連敗を止めようと思ってる。勝って勝って、勝ち倒して、勝利の女神様を振り向かせてやろうと、こう思っているんだあ」 「はあ、さいですか。……勝負、ねえ」 「……だめ?」 「……まあ、馴染みだしな、付き合うのは、やぶさかじゃないけどよ。一体、なにで勝負するんだよ? そもそも俺にも、余分な金なんて一銭もないぞ?」 「大丈夫。君の貧乏さは、理解してる。勝負は今だよ。このトランプを使って、ポーカーで勝負するんだ。これなら時間もかからないし、連続の勝負も可能でしょ。そしてお金だけど、一銭も使わない。代わりに別の物を賭けて、勝負するんだ。ちょっと、待っててね……」 「……おい、なんか妙にでかいバッグ持ってきたなあ、とは思っていたけどよ。一体、なにをだそうとしてるんだよ?」 「……よし、僕は準備万端だよ。さあ早く、君も賭ける物を選んでよ!」 「……待て。説明しろ。突然、フリーマーケットみたいに雑多な物並べて、なにをする気なんだ? 賭ける物って、なんなんだよ?」 「……ふう」 「……おい、なんだその、保護シートをうまく貼れなかったスマホを見るような目は。そんな目される覚え、こっちにゃまるでねえぞ」 「はあ、仕方ない。あまりに鈍感すぎる君に、懇切丁寧、説明してあげるとするか。まったく鈍感すぎて、こっちがイヤになるよなあ」 「――ああ、ありがとう。端的に頼むな。じゃないと俺、お前をつねってしまいそうだからさ」 「あのね、僕は競馬で勝つために、勝ちぐせをつけたいんだ。それにはギャンブルをやって勝ち続ける必要があるんだけど、君も知ってのとおり、僕は弱くてお金はでていく一方だ。くせをつけようにも元手がカラッポで、勝負自体がままならない。ここまでは、できそこないのお面みたいな顔した君にも、理解できるね?」 「――ああ、分かるよ。だから早く、続きを。拳がもう、お前を殴れと叫んでるんだ」 「勝ちぐせをつけたい、でも、元手がない。そもそも勝てると確信してから、競馬は再開したいんだ。そこで、これだよ。不要な物を賭けて、勝負するんだ。なにかを賭けなきゃギャンブルとはいえないし、これなら賭けるといっても不用品だから、負けてもお互いにダメージは少ない。負けても、苦痛は少なくてすむんだよ。とっても、いいアイディアでしょ?」 「……あのさ」 「うん」 「色々言いたいことあるけど、一番気になったこと、言っていいか?」 「うん、どうぞ」 「この賭けだけどさ、勝ってもこれ、俺にメリットないだろ。むしろ不用品押しつけられる分、完全にマイナスじゃねえか。なんでお前の不用品、俺が引き取らなきゃいけないんだよ。俺、絶対に引き取んないからな」 「……はあああ~」 「おい、なんだその、フォロワーがひとりもいないヤツを見るような目は。さっきも言ったけどそんな目される覚え、こっちにはまるでねえからな。間違ったこと、俺はなにひとつ言ってねえからな」 「……ううん。悲しいかな、間違ってるよ。だってそれ、僕に勝つのが前提になってるでしょ? 僕に勝てると思ったうえで言ってる、そんな、不満だよね?」 「は? ……まあ、そうだろ。お前に負けるなんてありえないし。不用品押しつけられて、俺が損するだけに決まって――」 「へえー、そうなんだあ、ふーん。――君、ギャンブル、すっごく弱いくせにねえ?」
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