ヒナコ姐さんのお手製あんみつ

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ヒナコ姐さんのお手製あんみつ

 グラニュー男爵サンとよしのチャン、どうもおまたせ〜。お楽しみ、真夜中の三時のおやつですよ〜。  って、あらあら? 待ちくたびれた感じがしてよ。こうして見れば、お二人なんだか顔色が同じ。まるで親子みたいね、ウフフフ。 「笑い事じゃありませんから!」と言いたげな顔で睨まないで頂戴な、よしのチャン。   え?「五分ほど相手をしていれば良い」と聞いたのに、時間はもう……アラ? 三時四十五分! 本当に時間て経つのが早いわよね〜。ヒナコ姐さんも、厨房であんみつ作りに精を出すばかりに気がつかなったわん。でもね、遂に出来たわ。ヒナコ特製あんみつが! 伊達に長時間待たせてしまった訳では無くってよ。さあ、お召し上がれ! 「本当にあんみつが! 食材はもう無かったはずなのに? 白玉団子なんて、美味しそう」ですって? そうよ是非ぜひ食べてみて~。でも、あんまりスプーンで押すとぐしゃっとなるから……だって白玉粉の代わりに、豆腐を丸くくり貫いてみたのだから。小さな角切りの寒天もなかなか美味よ。 「なんかこの寒天、黒く濁りすぎていませんか?」ですって?   それもそのはず、口に入れた瞬間に、すっぽんの強烈な臭いが広がっていくでしょう? すっぽん鍋用のゼラチンが厨房にあったので、使ってみた訳。コラーゲンたっぷりで美容にもグッド!  小豆の代わりに焦がしたインゲン豆を。あんこの代わりにチョコレートをご飯粒にコーティングしてみたわん。黒蜜ではなく黒色に変色させたかき氷のシロップ上からかけて……ホラ、ヒナコ姐さん特製の横濱あんみつの出来上がり~。  どうかしら、お味の方は?  よしのチャン、そんな眉間にしわ寄せて難しそうな顔をしないで。美味しい? 美味しいでしょ? 「なんか色々な味が交じり合って……」ですって?   ウェっ吐き出そうとしないで! カオスな味こそが良いんじゃない。さて、グラニュー男爵の方は? あら? なんかスプーンを握る手がプルプル震えちゃっているわね。きっとワタクシのあんみつの出来栄えに感激しているに違いないわ!   え? なにかしら、よしのチャン? 「アタシの口髭が前よりも伸びてきている」?  あら大変! どうしてかしらん? 「グラニュー男爵が怒って、呪いが強まっているんですよ、きっと」ですって? う~ん、意外にも味にはキビシイ方なのかもしれないわね。でも、良くってよしのチャン、あんみつの決め手は何処にあると思う? 白玉? 寒天? あんこ? 黒蜜? 違うわ。本当のあんみつ好きの目を付けるところとは……サクランボなの! お皿に一番目立つ処に乗っかっている、一本の『サクランボ』アレですべては決まる。 「そんなこと初めて聞きました」って? よしのチャンがあんみつ素人だからよ。ホラ、グラニュー男爵をよぉく御覧なさいな。まだ『サクランボ』には手を付けていないでしょ?   ニンゲンには二通りのタイプがいるの。  好物を先に食べてしまうか。それとも、最後にとっておくのか? ちなみに、せっかちなワタクシは真っ先に食べてしまうタイプね。でも、グラニュー男爵はどうやら最後にとっておく派みたいね。だからこそ『サクランボ』を残したままなの。ジャパンの格言にあったでしょ。『終わりよければすべて良し』てね。あんみつだって、同じこと。つまりは男爵が最後に『サクランボ』を美味しく食べてくれたら、満足してくれて呪いも消える。よしのチャンのナマズっぽい口髭も無くなるって事。  さあ、いよいよだわ。すっぽんゼラチン寒天を食べ切った男爵が、遂にラストの『サクランボ』に手を伸ばす……。  あら、どうしたのよしのチャン?   ふんふん「でも、厨房にサクランボなんて残っていました?」と言いたげな顔を向けてきて……もちろん、サクランボの缶詰はスッカラカンだったわ。でも、ワタクシは厨房でとっておきの『サクランボ』を見つけてしまったの! ウフフフ、それは果たして何でしょうか? 食べてのお楽しみね。  グラニュー男爵が幸せそうな顔をしてサクランボを一気に一口! でもって……両手を頬当てて、歓喜の叫びを上げる? 上げちゃう? 上げちゃいなさいな!  って、「すっぱい、スッパイ、酸っぱ~い! コレ、酸っぱいヨー!」と叫ぶや……あららスプーンを握りしめたまま猛ダッシュで店から出ると馬車に乗って帰っていっちゃったわ!   あら? よしのチャン、口髭がきれいになくなっているじゃない。男爵は呪うどころの騒ぎではなくなったみたいね。そんなにお気に召さなかったのかしら? ワタクシの『サクランボ』は? コリコリしていて美味しい梅干しなのにね。          占い師ヒナコ姐さんの、お手製あんみつを召し上がれ 了
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