占い師ヒナコ姐さんの、お手製あんみつを召し上がれ

ヒナコ姐さん、地団太を踏む

「お客サマ？　いかがなされたのですか」ですって？
　貴女、これが驚かずにはいられますか。ワタクシの時計の針が一時間早かっただなんて！　これじゃ、せっかく頑張ってあんみつを平らげた意味無いじゃな〜い！　
　って、貴女今クスリと笑ったでしょ？　ファミレスの床に転がって地団駄踏んでいるワタクシの姿を……ひっくり返って足をバタつかせているゴキブリみたいだな〜とか頭の中で妄想を働かせていたのでしょ？　とにかくよ。何時までもこうしてはいられないわ。もうじきアイツが、アイツがやってくるのよ！

「お客様？　待ち合わせてしてらっしゃるお客様がいらっしゃるのですか？」って、そうよ、そうなのよ！　って、今、貴女スゴく嫌そうな顔をしたわね。「そ、そんなことありません！」と愛想笑いを浮かべてもムダ。手を貸して頂戴。三時のおやつを食べなおさなくちゃ。貴女、もう一度オーダーよろしくって？　あんみつ、あんみつ、さっきワタクシが食べたファミレスチックなあんみつを持ってきて頂戴な！　

「お客様、生憎、あんみつはもう売り切れになっておりますが……」ですって？　あんみつ無いの？　一食分も？　全く全然？　きれいさっぱり？　完売なの？　どうして？　ワタクシ、今さっきあんみつ注文したら、ちゃんと出てきたことを覚えているけど。それともアレは幻だったとでもいうのかしらん？

「先ほど、お客さまがたくさん注文されましたので、食材が全てなくなってしまいました」？　
　まあ、酷い。あんみつが売り切れたことをお客サンのワタクシのせいにするのね？　だったら、今から食材を買ってきなさいな。面倒だったら、近くのコンビニで出来合いのあんみつを買ってきてもオーケーよ。って、気づけば外は土砂降り？　アンビリーバボー！　きっとアイツがココに来るからよ。ホラ、耳を済ませてご覧なさいな。激しい雨音の他に、小刻みな音が聞こえなくて？　あれは馬車の音に違いない。
「馬車……ですか？」
　そうよ、けれども、単なる馬車ではないの。一年に一度だけ現れる、横濱名物魔性の馬車。それに乗っているのは、正真正銘のゴースト。亡霊紳士グラニュー男爵なのだから！