絶滅オメガを愛するアルファ

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この世界にはα・β・Ωの三種類の人間がいる。 αには社会の中でも優れた者が多くそれゆえ人口が少ない。 一般的なのはβと呼ばれる人種で最も人口が多い。 Ωは両性有具であり、その容姿は驚くほど美しいとされるが、 今や絶滅したと言われている。 なぜΩが絶滅したと言われているか? それは昔、 Ωがαを誘惑するために迫害され、一斉に排除されてしまったからである。 「運命の番」という言葉が流行っていた。 人々はそれに翻弄され、発情期のフェロモンを出すΩに夢中となった。 番の契約をされても、捨てられることも当時は多く、Ωは衰退していった。 本当にΩがいたら見てみたいな。そう思った。 ユナ・ウェールズはパブリックスクールに通うαの15歳。 このパブリックスクールは全員αという事が大前提であり、 富裕層の集まりである。 13歳から18歳までの青年が寮生活を送り、 将来を約束されたものが通う学校である。 基本的に編入制度などはなく皆エスカレーター式に上がっていく。 そのため家同士の繋がりも社交界において重要となってくる。 ウェールズ家は古くからの宝石行商であり、この中でも大の富裕層である。 ユナは小さい頃から宝石や美しいものに囲まれて育ち、 綺麗な物が大好きであった。 αの中のαと言われるほどブロンドの髪にサファイアブルーの瞳、 モデルのような体躯に頭脳、スポーツにおいてすべて秀でていた。 手に入らないものは無いと思っていたユナだが、 美しいΩがいたら絶対自分の物にしたい。 こんなつまらない世界、見飽きた宝石なんかより 「運命の番」に強く心を惹かれていた。 Ωは絶滅したと言われているだけであり、あくまで仮設。 もし自分だけの番を手にしたならどんなに幸福だろうか。 「なぁ、あいつ見て!!」 「ユナ、あいつ知ってるか?このスクールで一番の最下位。」 廊下を歩いているとアーロンがユナの肩に手を当て声をかけてきた。 「アーロン、そんな言い方はやめろ。」たしなめるように返した後に 「そんな奴、目の中に入らないよ。」と小声で嘲笑った。 ユナはこのスクールにおいて頂点の人間であり、学生の鏡ともされていた。 生徒からの羨望の眼差しは常に感じており、 ユナ自身それを当たり前に過ごしていた。 常に周りにはユナの取り巻きが最低5人はいる状況。 その中でもアーロン・ファブレーはユナと幼馴染であり、 一番の理解者であった。 アーロンが指をさした方向にはαには似つかわしくない低身長、黒髪、 眼鏡と前髪で顔もよく見えない学園の恥と言われている 最下位のシュウ・アメリアが蹲っていた。 色白で顔色も悪く見えがちのため具合が悪いのか、 嫌がらせで躓いたのかは定かでない。 「アメリア家と言えばあの小さな貿易商のところか。」 「ユナよく知ってるな。」 家柄同士でつるむことが多いため、ユナにとっては格下以下の何でもない。 興味も持たずユナはそのまま目線を外した。 シュウの周りは学園の恥には誰も近寄りたくないとばかりで常に一人だった。シュウはのそのそ立ち上がり急いで寮に帰って行った。 「何なんだあいつ。また授業さぼってるのか。」 「またってどういうことなんだ?」 廊下を歩いていたユナは立ち止まってアーロンに聞いた。 「ユナにはまだ話してなかったけど、ここんとこあいつ寮で休んでるらしいぜ。」 「理由は?」 「そんなの俺が知るかよ。まぁ体調でも悪いんじゃないの。あんなに折れそうな身体してるし。」 「今夜問い詰めてやる!!」 ユナはこのスクールの寮長を務めており、 学生の生活態度もユナの成績に反映される。 皆の前では模範生でなければならない。 そんな中、一人逸脱した行動をとられたらたまったもんじゃない。 体調管理も学生として行ってもらわなければ困る。 笑顔の下では忌々しいシュウをどうやって問い詰めてやろうか考えていた。 シュウ・アメリア、15歳には秘密があった。 シュウは日本語で「愁」と書く。日本人の母親がシュウにくれた贈り物だ。 その母親はシュウが3歳の時に衰弱して亡くなった。 母親は周期的に来る苦しみに耐えられず、そのまま亡くなったのである。 母親が死んだ時は3歳だったので何もなすすべがなく、 シュウが近隣の住民にみつけられそのまま孤児院に入れられた。 シュウの所持品の中に母からの一冊のノートがあった。 そこには母親の生い立ちやシュウに関するすべてのことが書かれてあった。「愛すべき息子が幸せになりますように。一縷の望みとともに。愁へ。」 と最後に書かれている。 これを理解できるようになったころシュウは孤児院で12歳を迎えていた。 「お前は小さいんだからそんなに食べなくても平気だよな!」 「えっ・・。だめ、やめて!!」 シュウは孤児院の中でも身体が小さく、虚弱体質であった。 出生登録書にはαと書かれているが、体力面において著しくαに劣っていた。食事やおやつを盗まれたり、背中を押されることは日常茶飯事。 職員からも好まれておらず、シュウに関わる子供同士の諍いには 見て見ぬふりをされた。シュウは常に一人だった。 しかしシュウは母親の一冊のノートのおかげで常に優しい気持ちでいられた。たとえどんな嫌がらせを受けようとも。 また一人で本を読むことが好きだったシュウにとってはそっとしてもらえることのほうが都合がよかった。 12歳のある日、孤児院に一人の男性がやってきた。 名前はジョージ・アメリア。 イギリスで小さい貿易商を営んでいるとのことだった。 「アメリアさん。これ僕が作ったんです。ぜひ食べてみてください。」 「アメリアさんのお家に行ってみたいです。」 「こんなに優しい人がお父さんだったらなぁ。」孤児院では皆養子に 貰ってほしいためにアメリアに気に入られるように振舞っていた。 「僕には関係のない話だ」それを見ていたシュウは広場の陰で いつものようにひっそりと本を読んでいた。 今まで養子をもらうために来た大人から一度も声をかけてもらったことがない。媚びを売って周りの子供達に邪険にされることのほうがシュウにとっては面倒であった。 また、シュウの目を見て嫌悪感を抱く者も居たため、髪は常に伸ばしぼさぼさにしていた。 「ここの子供達はこれで全員かな?」 アメリアが笑いながら子供達に話しかけると、 いつも嫌がらせをする子供達がシュウを指さした。 「あいつもいるけどいつも本ばかり読んでてつまらないやつなんだ。」 「俺たちが誘ってもこっちに来ないしな。」 「本ばっかり読んでるからもやしみたいに細いし、運動も出来ないよな!!」「目も変な色をしてて、呪われるみたいなんですよ!!」 と矢継ぎ早にシュウの悪口を話し出した。 シュウはまたか…といつもの状況を察した。 僕の事何か言ってる…僕には関係ないことだけど、と思いながら本を読んでいると、突然シュウに落ちる影が一層濃くなった。 見上げるとそこにはアメリアがいた。一瞬目が合う。 アメリアのゴールドの前髪からエメラルドグリーンの瞳がシュウに写る。 僕の瞳と同じ色と思いながら、シュウは顔をさっと下す。 何を思ったのかアメリアは急に「君は、私の瞳と同じ色をしてるね。」 とシュウの耳元でそっと囁いた。 アメリアは一瞬なにかを考え込んで、その場をさっと後にした。 僕と同じことを思ってくれた人は初めてだな。とシュウは小さな喜びを感じた。少なくとも気味悪がられたりしていない現実がうれしかった。 それ以上は何も思わず、シュウは本の続きを読みだした。 アメリアが立ち去って、10分ほどしたら、今度は園長を連れて現れた。「シュウ。今日からあなたはアメリアさんの家の子になります。 立ち上がって挨拶しなさい。」 シュウは自分が何を言われているのかすぐには理解できなかった。 だって何の取柄もないこんな僕。 皆から疎まれているこの僕が?そう思った。 だからすぐに動くことができなかった。 「私はジョージ・アメリアだ。君を私の住んでいるイタリアに一緒に連れていきたいんだけ来てくれるかな?」アメリアは優しくそう言った。 それでもシュウは動くことができずにいると園長はシュウの態度にしびれを切らし、 「シュウ。まずは立ち上がりなさい。そしてお礼を言うのですよ。」と 叱咤してきたのでその言葉でやっとシュウは立ち上がり 「あ、ありがと…う、ござい…ます。」か細い声で礼を述べた。 「私のほうこそありがとう。これからよろしくね。君の荷物をまとめようか。部屋を案内してくれる?」 アメリアの言葉にシュウは現実とも受け入れがたい状況で 「こっち」と指を差し部屋に案内した。 シュウの着ていた服はお下がりのよれたものばかりであり、 余所行きの服など持っていなかった。 「持って行きたいものは全部積めるといいよ。」アメリアは言ってくれるが、シュウにとっては母親の残してくれたノートだけが大切だったので、 ノートを両手で持ち、 「ほかに持って行きたいものはないです。」とだけ答えた。 その様子にアメリアは微笑み「服は買いに行こうか。」言いながらシュウの頭をそっと撫でた。 それから一通りの手続きをするため園長室に行き事務手続きを行い、 アメリアは孤児院への寄付金の小切手を渡した。 「なんでお前なんかがっ!!」 「アメリアさん私たちも連れて行ってください!!」 「どんな手を使ったんだよ!!」 「こいつといると呪われますよ!!!」 など訳10年生活していた孤児院を出るときは酷い言われようであったが、シュウは顔色一つ変えず、挨拶の言葉もなく、 静かにアメリアの後をついて行った。 孤児院を出ると黒塗りの車が待ち構えており、 アメリアは「乗って。」とシュウを促した。 初めて車に乗ったシュウの心境は穏やかなものではなく酷く緊張していた。「そんなに息をつめなくても大丈夫だよ。とりあえず、一旦ホテルに行ってそこで話をしようと思っているんだけど大丈夫かな?」と説明し、 アメリアはシュウの小さな手を握った。 30分程車に乗り、ついた場所は高級外資系ホテルであった。 今更ながらシュウは自分の恰好が非常に不釣り合いな事に気づき、 降りることをためらっていると、アメリアに促されので顔を下に向けたままそっと車から降りた。 アメリアはホテルの執事にイタリア語でそっと耳打ちし、 シュウの手を引きながらそのままエレベーターへ乗り込んだ。 エレベーターがついた先はこのホテルの最上階スイートルームであった。 アメリアにリビングのソファーに座るように促され、 シュウは少しでもこの部屋を汚さないようにそっと座った。 上着を脱いだアメリアはカウンターでオレンジジュースをつぎ、 クッキーを乗せた皿を持ってシュウの隣に座った。 「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。」 アメリアが優しく微笑むがシュウは警戒しており、 何も発することはできずにいた。 シュウのために用意したジュースとクッキーをテーブルに置き、 アメリアは目線を合わせるようにそっと顎を持ち上げた。 シュウはビクッとするが、逆らうことも出来ずそのままアメリアを見つめ返す。 「名前、シュウ君だよね。」 シュウと同じエメラルドグリーンの瞳で問われ、静かに 「そう、です。」と答える。 「君はαなの?」 「た、ぶん。そうです。…でも、、、」 「でも、何かな?」アメリアの問いにシュウは戸惑いを見せる。 なぜならシュウは絶滅したと思われているΩ性だったからだ。 シュウの出生証明書にはαと記載されているが、偽造されていた。 その事実はシュウしか知らない。 なぜシュウは知っているのかというと、母親のノートに書かれてある事が真実であるからだ。 「愁。愁がこのノートを見るころには私はもう亡くなっているでしょう。 あなたの生い立ちをここに記載しておきます。 あなたの母、私は日本の小さな村で生まれ育ちました。 私はαとβの両親から生まれましたが、 隔世遺伝により今では絶滅したとも言われるΩ性として誕生しました。 昔は迫害されていたΩですが、小さな村の中では迫害なんてことは知らず、 大切に育ててもらいました。 発達が遅かった私は12歳で発情期が来ず、 βと思い過ごしていましたが、15歳に初めて発情期が訪れました。 村の中に腕の良い医師がいたため、発情期の抑制剤を定期的に飲み過ごしていました。βと変わらない状態で生活をしていましたが、 20歳の時に「運命の番」と出会いました。 一目見てそれはわかりました。 こんなに心を揺さぶられる思いがあると知らず、 大勢の前でフェロモンがあふれてしまいました。 そのままその人と逃げるように人里離れた場所で発情期を過ごしました。 幸福に包まれた中出来たのが、愁、あなたです。 しかし、大勢の前でフェロモンを出したことにより、 他のαもヒート状態となり、私は追われる身になってしまいました。 絶滅したΩを探し出せという触れ込みが回ってしまい、 村もやむ負えず出ていく事となりました。 愛した彼は万が一のことを考えて私の項は噛まずに 一旦町の様子を見てくると言いましたが、 私たちを守るため戻ってくることが出来なくなってしまいました。 Ωを隠し通さなければいけなかったため、 私はあなたを一人で産み守ろうと思いました。 それから2年程でΩの噂はようやく落ち着きました。 あなたには沢山貧しい思いをさせてしまってごめんなさい。 Ωの発情期はαに項を噛まれなければ、周期的に苦しむことになります。 また、今はΩがいないとされているので抑制剤は売っていません。 ですが大丈夫、自分で作ることができます。 私の処方してもらっていた薬の調剤方法と、一年分の薬を入れておきます。 発情期前後の一週間は薬を飲まなくてはいけないことを忘れないでください。薬の調剤方法を書いておくのであなたはこれを飲んでαとして生きてください。 僅かながらですが、お金の口座をあなた用に作っています。 このノートの一番後ろのポケットに印鑑、通帳、本物の出生証明書と 偽造の証明書を入れておきます。 私の一生をあなたの父親に捧げているため、 この苦しく愛しい発情期で死んでしまうことになるでしょう。 あなたの透き通るようなエメラルドの宝石の瞳は父親譲りのものです。 大切な私の愛しい子。 生きにくい性に産んでしまってごめんなさい。 あなたは私の宝物。 秋の空に心が二つ運命に結ばれて出来た子それが愁の名前です。 愛すべき息子が幸せになりますように。一縷の望みとともに。愁へ。」 母:杠より。 そして小さい愁と母親の写った写真が一枚だけ入っていた。 それが愁と母親の愛、すべてだった。 「ア、、メリアさんはどうして、僕なんかを・・」 「昔、君の顔によく似た人を知っていてね。黒髪で瞳も黒。 君はΩを信じるかい?」 その言葉にシュウはドキッとしながらも 「わからない、、です。」と答えた。 「みんなに馬鹿にされてしまうけれど、私はね、絶滅したと言われているΩに昔会ったことがあるんだよ。」 「そう、なんですか。」 「都市伝みたいに言われているけれどね、12年前に一人だけ、 運命の番にあったんだ。 運命の番って知ってる?」 アメリアは愛しいと言わんばかりの表情で過去を語りだした。 それをシュウはただ聞いていることしか出来なかった。 「私が25歳の頃の話で一度日本に貿易の仕事で訪れたことがあってね。 たまたま町で散歩をしていた時に出会った人がとても美しくて。 一目見てこの人だって思ったよ。そしたらその人はΩでね。 私は初めてヒートを体験して、周りのαも充てられていたから、 初めて出会ったその人を連れて逃げ出したんだ。」 そこからの話はシュウの母親のノートと内容がほとんど同じだった。 アメリアはシュウの父親なのだと悟った。 シュウはアメリアに一つ質問をした。 「な、んで、そのΩを迎えに行かないで、一人で行ったんですか?」 その問いに苦しい表情を隠しもせずアメリアは話した。 「当時はΩが迫害されててね。αの私が彼女の無実を証明するには離れるしかなかったんだよ。 もしそのまま残っていれば他のαや医学社会の餌食にされるような世の中だったんだよ。」 それを聞いたシュウは無表情でアメリアを見つめた。 「今はさ、αとβだけになって、αの出生率も低下していて、 Ωがいたらよかったのにって、逆説を唱える風潮になってきているけど、 そんなのたられば論だからね。唯一であった彼女を思うと今でも胸が熱くなるよ。」 愛おしそうに語るアメリアにシュウは困惑していた。 「君を見て思ったんんだ。もし彼女の子供がいるとしたなら、 こんな子なんじゃないかってね。」 シュウは何も言えずにアメリアの話を聞いているしかなかった。 「彼女の住んでいた村にも行ってみたんだけどすでに誰もいなくなっていてね。きっと彼女とももう会えないって思ってたよ。 その罪滅ぼしではないけれど、君と家族になりたくて。」 アメリアの家族という言葉を聞いてシュウはうつむくことしか出来なかった。 「ゆっくりとでいいから、私と家族になってくれないか。」 と言われシュウは静かに「はい。」と言った。 アメリアと家族になってからは驚くように早く時間が過ぎた。 まず親権によりシュウ・アメリアとなった。 国籍も日本からイギリスに変わった。 みすぼらしかった服は捨てられ、すべて高級志向の服が用意された。 髪の毛もきれいに整えられ、見たこともないような自分になっていた。 ハーフパンツから除くスラっと白く細い脚、黒髪にエメラルドグリーンの 大きな瞳は綺麗さの中に妖艶さを伺わせた。 シュウは殆どをアメリアの家で過ごした。 もともと社交的ではないため、 アメリアや家の使用人と話す以外で会話はない。 外出先でもおとなしくアメリアはシュウに欲しいものを聞くが、 「今の状態で満足ですよ。」と常に謙虚であった。 シュウが少しずつ話したり笑顔を見せるようになったのはイギリスに移住して半年後からだった。 ある日シュウはアメリアに呼び出された。 「シュウ。大事な話があるから書斎に来てもらえるかい?」 「わかりました。アメリアさん何かありましたか。」 いつもと違う表情から、シュウは緊張を覚える。 「そんなに怖がらなくとも、君は私の大切な子供だよ。」 安心させるように頭をなで、 「実はね、来年から学校に行くのはどうかなと思っていてね。」と話した。 「学校?僕がですか?」 それからアメリアは以前から考えていたこの自分の貿易会社を継がせるためにと、パブリックスクールに通うことを提案してきた。 「そう。私の貿易会社はイギリスの他の富裕層に比べたら小さい。 だけど、もしシュウがここを継いでくれるのならすごく嬉しいと思ってね。」シュウはイギリスに来た時アメリアを困らせないように一生懸命語学の勉強をした。それは独学であったが、本を読むことが好きなシュウにとっては苦のないことだった。 「シュウは本を読むことが好きだよね。学校へ行くと沢山の本と出合えるし、きっと仲間も増えると思うんだ。体力はまだ成長過程もあるから、これから少しずつつければいいし、きっとシュウの糧となるよ。どうかな?」 「本を沢山読めることはうれしいです。ですが、、優秀な成績を収められるかわからないです。」 シュウはアメリアの期待に応えられないかもしてないことを危惧していた。 するとシュウの様子を見たアメリアは一枚の写真を見せた。 「シュウこの写真なんだけどね。この前整理していたら出てきて。」 そこには黒髪で黒い瞳の優しそうな女性が写っていた。 「この人が私の出会った運命の番だよ。彼女とは本当に短い時間しか一緒にいることができなかったけれど、医者になりたいって言ってたんだ。そのことを急に思い出してね。」 写真の中の女性はシュウが持っている母親のノートに挟まっていた写真の人物と同じ顔。 シュウの母親の顔であった。 これで、アメリアがシュウの本当の父親だと確信したが、 シュウはそれを話すことが出来なかった。その代わりであるが、 「僕、薬や医者の仕事を勉強してみたいです。」と言った。 医者や薬剤師になれば自分が病気にかかった際や発情期は来たとしたらΩがバレにくいと思ったからである。その言葉にアメリアは 「じゃあ学校の入学準備を進めようか。」と賛成してくれた。 「僕が、貿易会社を継がないこと怒ってないんですか?」 恐る恐るシュウは聞くと 「確かに私の仕事を継いで欲しい気持ちはあるが、シュウの希望が一番だよ」と優しく頭を撫でてくれた。 パブリックスクール何とか受かって、シュウは寮での生活を余儀なくされた。月に2回アメリアの家に帰ることも許されており、 楽しいスクール生活を送るはずであった。 スクールに入ってすぐに感じたことは、ヒエラルキーである。 シュウの出身により下に見なされていた。 それは初めから解っていたことであるし、 シュウはアメリアの仕事を尊敬していたので何も思わなかった。 学歴に関しても、もともとギリギリの点数で入り、 体力もないことから、仕方がないと割り切れた。 αの中のさらに特別学校のためΩが普通絶対に入れないところであるが、 シュウは偽り続けた。 シュウの容姿は小柄で可愛いのに対し、周囲は長身で体格がモデルのように整っていることから、そうそうにいじめのターゲットとされてしまった。 シュウは孤児院の時よりこの状況に慣れていたため、 友達は出来なくとも、愛する家族アメリアのためと母の叶えたかった夢を支えにひっそりと学園生活を送っていた。 パブリックスクールでは黒髪が珍しく、時折引っ張ったりされていた。 また、瞳も大きいため、気持ち悪いと言われ続け、 伊達メガネをし前髪で隠すようになった。 アメリアの家に帰るときが一番幸せであり、心配させないようにしていた。 15歳になった時、ふと母親のノートが気になり読み返していた。 シュウはΩだとこのノートには書かれており、母親の発情が始まったもの 15歳と遅かったからとある。 シュウの学年ではみんな精通は早々と終えており、 女性がいないため同性での付き合いも多かった。 しかし、シュウは夢精は月に1回ほどあるが、それ以上に何かしたいという事もなく経過していたので、Ωという実感は全く無かった。 15歳を三ヵ月過ぎた頃に体調の変化が起きた 。まずは一週間位の微熱が続いた。 微熱で少し身体が気怠いだけだったので、そのまま様子を見て授業にも出ていた。 シュウの周りは基本的に人はいないが、授業が終わった後に、 「なんか甘ったるい匂いしない?」と言う学生が数人いただけだった。 もしかしてこれが発情期?と一瞬シュウは思ったが、 一週間で体調も治まったため様子を見ていた。 それからひと月たって、またシュウの体調の変化があった。 それは夜に突然来た。 「ううっ」とうなり、蹲りながら動悸と息苦しさを感じる。 その後、今まで感じたことのないような快感がショウを襲った。 「あ、あぁ!!」ショウのペニスが緩やかに勃起していた。 こんなことは初めてであり、今まで自分で自慰をしていなかったためショウは怖くて仕方がなかった。 机の引き出しまで何とか歩き、母のノートを見たときに確信した。 「はつ、じょうき、、」言葉にするとよりリアルに感じられ、 「はぁ、はぁっ」 と息をつき目に涙を浮かべながら、ノートに入っていた薬を1錠飲んだ。 初めての発情で不安や未知への恐怖が来るとともに、 どうしても抑えられない熱にも浮かされていた。 履いているパンツの中はすでに窮屈になって下着も濡れ不快だったため、 どうしようもない気持ちで脱ごうとすると、 先端と下着が糸を張っており卑猥な状態にショックを受けた。 またシュウは今まで自慰をしたことがなく、酷くそれに抵抗があった。 それでも欲は静まらず、ベッドにうつぶせになると、ペニスとシーツがあたるだけでも快感となり、いつの間にか腰を高く上げ、シーツに擦りつけていた。 「あぁ・・はぁ、あぁぁ・・・」 「ふぅっ・・もぅ・・で・ちゃう・・・」一人で初めて射精した夜だった。 一度射精したあとにようやく薬が効いてきたのか身体が落ち着き、 頭がクリアになると、発情した自分が怖くなり、涙がこぼれ、 一晩中泣いていた。泣き疲れてそのまま寝てしまい、 朝になって顔を見てみると酷いくらいに目が腫れていた。 泣いたせいか、発情期からくるものなのか解らず、頭痛もしていたため、 初めて学校を休むための連絡をした。 昼頃には落ち着きを取り戻し、部屋の空気の入れ替えを行った。 誰もいない時間にしなければ、万が一ヒートを起こすαが出てくるかもしれないからだった。 それからノートを読み返し、自分の置かれている状況を把握した。 発情期には微熱などの症状も含まれるため、 異変を感じたらすぐに薬を服用したほうがいいこと。 薬は1日1錠であるが、最大3錠までは内服出来ること。副作用として嘔気、嘔吐、食欲不振など出てくる恐れがあること。 多重服用は死に至る危険があること。 常に携帯しておかなければいけないこと。 一年分しか薬がないため自分で調合しないといけないこと。 万が一、発情期で襲われた場合、避妊薬があること。 あと発情期がきた際薬がない場合は性交で少し身体が治まること。 発情期で何もしない場合、αに噛まれた場合などこと細かくノートには書かれていた。 Ωであることは自分以外誰も知らない事実であり、アメリアに迷惑もかけられない。 不安以外何もなかった。 けれど、もし「運命の番」に会ってしまったら・・。 そんな事を考える余裕はシュウにはなかった。発情期がその後3回訪れたが、 すべて薬を早めに飲んでいたので特に問題なく生活できていた。 しかし、発情期の前触れに近くなると、性衝動が抑えきれず、 ベッドのシーツにペニスを擦りつけてイクことが習慣になりつつあった。 そのたびに自己嫌悪になり、泣き、 翌日学校を休んでしまうというサイクルになっていた。 毎月一度は体調不良で休むことはあれど、 周囲に嫌煙されていたため、特に何も言われなかった。 学力も、αの底辺ではあるが、他の学校に比べ学力は高いところであり、 特別に不真面目な態度をすることもなかったため、 教師から何も言われなかった。 そんな中、学園のトップ集団ユナ・ウェールズに目をつけられてしまった。
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