ビチグソ転生。20話 第一部 補完

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 僕は、ダイベンガーのコックピットからジャンプして落ちた。十メートルの高さからの死へのジャンプだ。  そしてこういう時にありがちなように、周囲の風景はモノクロのスローモーションと化した。僕はそれらを冷静な目で観察していた。  地上10メートルの高さから落下、これは地球の物理法則の常識に従えば十分に死ねる高さだろう。だいたい三階建ての建物の窓から落ちる位の高さがある。運良く落ちたところに芝生や生け垣があって上手くショックを和らげれば、十分に助かる可能性のある高さでもあった。しかし例えば運悪く打ち所が悪ければ、例え三メートルの階段でも人間は十分に死ぬ事もある。だから微妙な高さとも言える。  僕の脳裏では、落下をしながらもそんな思考が目まぐるしく働いていた。それは落ちていく僕が、その生存のためにはいったいどのような方法があって選択可能なのか、それを捜すために脳がフルスピードで高速処理をしている証だった。  僕は頭を下にして真っ直ぐに落下していた。だからこのまま行けば死ぬだろう。そして手の届く範囲に掴めそうなものは何も無かった。だから何かを掴んで落下の姿勢を変えることは出来ない。十メートルの高さでは、空気抵抗を利用して体の向きを変える事も不可能だ。すでに絶体絶命の状態だった。  そんな僕に出来ることと言ったら、落下の瞬間に柔道の受け身を取って落下の衝撃を全身に分散させることだ。それは落下の瞬間に衝突した頭を曲げて姿勢を変え、その衝撃を背中に逃し、そこからさらに手に衝撃を伝え、最後にその手を伸ばして地面を思いきり叩くこと。そうすることで地面に全ての落下エネルギーを逃がすという方法だった。(僕は何故か、この方法を知っていた。きっと前世の記憶に違いない)  しかし僕の背中には命よりも大事な便器がある。何故そんなにもこの便器が大事なのか、それさえも分らなかったけれど、思えば僕はこの便器のために今まで旅をしてきたような気さえする。それくらい僕に取って大事なものだったんだ。だから僕は、例え自分の命が危機にさらされようと、この便器を下に向けるという事は考えられない。 「そうだ、一か八か! 頭から落ちて腹に衝撃を伝えるんだ。そしてその衝撃を足に伝え地面を思いっきり蹴る、そうやって地面に落下エネルギーを逃がすんだ」  逆転の発想だった。  背中がダメなら腹がある。しかしそれでは手で地面を叩くことが出来ない。だから足で地面を蹴る。まるで少年マンガの主人公みたいな理屈だった。でも今は、それに全てをかけるしか無い。  僕は落下に備えて身構えた。  地面が目の前に迫っている。 「いくぞ!」  まずは落下のタイミングに合わせて首を曲げ、腹に衝撃を逃す。  ドッ (最初の衝撃がきた、今だ! 首を曲げて腹に・・・・・・)  シ (よし上手くいったぞ、このまま足まで衝撃を逃す)  ン。  「出来っ」  ゴキッ  成功を確信した瞬間、後から落下してきた便器の角が僕の後頭部を思い切り砕いた。そうして僕の魂は、この世界と永久におさらばする事になった。 (ははははは・・・・・・失敗してしまった。エメドラちゃんブラカスちゃんごめん・・・・・・、僕はもう、君たちに、会えない・・・・・・)    僕の魂はそのまま鳥になって空を飛んだ。といっても鳥に転生したとかそういう事では無い。多分、魂は空を飛んだり泳いだり出来る。そんな時、その魂が生前に抱いたイメージに合わせて、鳥になったり魚になったりするに違いない。  ガンバリパークの空は、太陽が沈みかけて紫色のグラデーションを作り出していた。ガンバリ湖はその空の色を写して深い青色。その向こうには水晶のような輝きを放つ、雪の降り積もった山々が見えた。それはブラカスちゃんの説明だと氷河地帯という事になる。そしてあの雪の降り積もった一番高い山の名前はガンバリマウンテンとか、多分そんな名前で、その向こうにはガンバリ図書館もあるはずだ。  ガンバリパークの景色は素晴らしかった。だけど僕にはもう、時間が残されていない。もうすぐ僕の魂はこの世界を離れるに違いない。だから早く、一番大切な光景をこの目に、いや魂に刻みつけなければいけない。  僕がこの世界で、最後にどうしても見ておきたい光景、それはひとつしか無い・・・・・・。  ビュオオオオオオ  風が肉体をすり抜けていく音がする。空気抵抗を感じるような肉体は無いはずなのに、それでも音がするのはきっと、空気自体が音を持っているからなのだ。それはきっといままでに、誰ひとり観測したことの無い世界の真実に違いない。それはこの世界が持つまだ誰の知ることの無い数々の秘密のひとつだった。そして生きている限り、現実的な質量を持つ限りは決して観測することの出来ない秘密だった。こんな秘密を知ったなら、例えばあの人ならどんなに喜ぶだろうか? しかしもう、それを伝えることも僕には出来ないのだ。 (居た、やっぱり僕の事待ちきれずに、二人で始めていたんだね)  湖の中に、無邪気に飛び跳ねて踊る二人のズルンズの裸体が見えた。ほとんど裸同然のカッコだったけれど、最小限の大事な部分だけは隠されていた。それはクローバーとシジミ、緑と黒の水着を着たエメドラちゃんブラカスちゃんの姿だ。 (もっと近づいて、細部まで見たい、この魂に焼き付けて・・・・・・)  肉体が無いのだから目など無い。だから魂に焼き付けて僕は逝く。そのために急降下して彼女たちに近づこうとした。だけど体は逆に、ドンドン空の方に向ってひっぱらられていく。 (エメドラちゃんブラカスちゃん!)  池の水ではしゃいでいた二人が急に立ち止まった。  そして空を見上げた。  こちらを指さし二人は笑った。  その無邪気な笑顔を見て、僕も思わず笑ってしまった。  僕は手を振った。  二人も手を振って返した。  そして何事も無かったように、二人は水遊びを再開した。 (さようなら、さようなら僕の愛するズルンズ達、それからガンバリパーク・・・・・・)  僕の意識は青空に吸い込まれていった。  *  ツンツン  ツンツン 「おいおまえ、本当に死んでるのか」  誰かが私の頭をツンツンと突っついていた。 「うう、ここは何処だ」 「ひょわわわわわ、い、生き返った!」  視界は真っ赤に染まっていた。  声のする方を見ると、そこに人影が見えた。 「誰だ、おまえは・・・・・・」  私は正体の分らない誰かにすごんだ。 「ひいい、うわ、ご、ごめんなさいごめんなさい」  人影が蠢きながら小さくなった。多分、かがみ込んでいるのだ。 「おまえは・・・・・・」  私は血に濡れて垂れ下がった前髪を手で掻き上げた。視界が幾分クリアになった。 「おまえは、あの時の坊主か・・・・・・」  目の前で坊主が土下座をしていた。小さく縮み上がり、まるで子供のようだった。  私は周りを見渡した。  そこは、私が罠にかかって転げ落ちた窪地のようだった。窪地は雑草に覆われていて、私たちを取り囲むように緑が生い茂っている。しかし私が上から滑り落ちた部分だけは、茶色くなって土が向きだしになっていた。  坊主が恐る恐る顔を上げた。 「ごめんなさいごめんなさい、あんなに見事に下まで落ちていくなんて、僕、思わなかったんだ。本当にごめんなさい」  坊主は再び、地面に顔をこすりつけた。その頭には私が投げた石で出来た、大きなたんこぶがあった。 「いや、私も悪かったのだ。その、少し強くぶつけてしまったかな。どれ、見せてみろ」  私は坊主の頭に手を伸ばし、たんこぶに触れた。 「あひいっ」  坊主は素っ頓狂な声を上げた。 「やはり痛むのか。すまなかったな」  わたしは坊主の頭を、傷に振れないように優しく撫でた。 「あひ、あひい、や、やめてくだしゃい」  坊主は私の手を取って顔を上げた。その顔はすっかり上気して紅潮している。 「どうした?」 「ぼく、敏感なんだ。だからあんまり、その、触れないでください・・・・・・」  震えながら懇願する坊主の態度には、妙に色っぽいものがっあった。  坊主の袈裟は乱れ、胸元からピンクの乳首が露出している。乳首はしっかりと勃起していた。 「お、おまえ・・・・・・」 「あっ」  坊主は私の視線に気づき、慌ててはだけた袈裟を直した。  ゴクリッ  私はその、あまりに扇情的な姿に思わず生唾を飲み込んだ。   そして私は気がついた。坊主の顔が妙に整っているという事に・・・・・・。  私は質問した。 「おまえ、名前は?」 「え、ぼく? 僕の名前は・・・・・・ん、僕の名前は、み、みどりくろ、たつみ、緑黒辰巳って言うんだ」  辰巳は恥ずかしそうにうつむいて答えた。 「みどりくろ・・・・・・たつみ・・・・・・そうか、変わった苗字だな」  私はそう答えたが、しかし内心では少しも変わっているとは思っていなかった。その整った顔立ちに気がついた時、私は似ていると思ったのだ。異世界で出会った、あの美少女達に・・・・・・。  辰巳は、髪こそは無いがその顔立ちは完全な美少女のそれだった。そして記憶の中の、すでにイデア化した少女達の概念は、あまりに完全であるがためにその顔立ちまで似てきてしまう。  例えばおっとりした優しい表情の魅力的な美少女と、いつも強気でボーイッシュな美少女、その二人の顔を見分けるために私たちが常によりどころにしている物はいったい何だろうか?   それは微細な顔の造作の違いでは無く、あくまでもそこに宿る本質、いわば「中の人」とでもいうべき、簡単には説明しがたい隠された本性なのではないだろうか。そういった霊的で高次元な要素によってのみ、我々は常に美少女の概念におけるアイデンティティの特性を決定しているのだ。  という事は、それならば私たちの出会いは、そもそもの初めから、物語の最初から、この出会いによって始っていたという事になる。それはつまり、これが完全なるボーイミーツガールであり、少しも奇をてらっていない王道中の王道、ド定番のラブコメだったという事の証明に他ならないのである。 「辰巳、立てるか?」  私は手を差し出した。 「お、おじさんの方こそ大丈夫なの? 血だらけじゃ無いか」 「はは、おじさんは丈夫だから大丈夫さ」  私は辰巳の手を握った。 「あひんっ」  辰巳はまた、妙な声を上げた。 「・・・・・・」 「ごめんなさいごめんなさい。ぼく、ほんとうに敏感だから、人に触られると変な声が出ちゃって・・・・・・」 「いいんだ」  私は辰巳の手を取って立ち上がらせた。そして初めてその姿を、頭の先からつま先まで、全身をジックリと観察した。  辰巳の顔は、まさに美少女の顔と言って良かった。ツルッとそり上げられた頭だったが、毛の一本も無いその頭が睫の長さを相対的に強調する結果となった。そのせいで目がすごく大きく見えるのだ。その目はキラキラと輝き、敏感な辰巳は常にその瞳を潤ませている。そして、小さな鼻と愛らしく閉じた唇。唇はツンとして小さく尖り、先端が少し湿っている。 「ああん、んぷ、やだよ触れないでったら」  辰巳は言った。  私はつい、無意識に辰巳の唇に触れていたようだ。 「んっんんぷ、やめて、んぷ、やめてったら」  私は拒否されても辰巳の唇から指を離せずにいた。そしてその唇をクニクニと弄び続けた。 「ああ、おじさん、おじさんだめ、ぼく、ぼく、イク、イッちゃう!」  突然、辰巳の体が電撃に打たれたように痙攣した。  そして辰巳の体はグッタリと力が抜けたようになり、私にもたれ掛かかってきた。 「はあはあはあ、ぼく、ぼく敏感だって言ったじゃないか。うう、恥ずかしい・・・・・・うう、うわーん」  辰巳は私の胸に、ツルツル頭を預け泣き出した。 「どうしたんだ辰巳、何故泣くのだ?」 「だって、だってぼくは、こんなにも淫らなんだ。これじゃあきっと、嫌われちゃうに決まってる。誰だってこんな、こんなふしだらな人間を愛したり出来ないよ。嫌いになるに決まってる。だから、だからぼくは、こんな自分を変えるために、鍛えるために出家して坊主になったっていうのに、あなたは、あなたは僕を、元の変態に戻してしまった、ううう、うわーん」  辰巳は潤んだ瞳で私を見上げて言った。 「誰もおまえを嫌うもんか」 「嘘だ、こんないやらしい、こんないやらしい淫らな変態坊主を、好きになってくれる人なんていないよ。どうせぼくは、また玩ばれて捨てられるだけなんだ」 「辰巳・・・・・・」 「やめてよ、そんな優しげな目でぼくを見ないで。ぼく、すぐに人を好きになっちゃうんだ。それでいつも玩ばれて、汚されて、うう、うう、僕は、汚いんだ、汚れてるんだよ」 「おまえは汚れちゃいない!」  私は辰巳を抱きしめて言った。 「おまえは汚れちゃいない。それどころか、それどころか・・・・・・何よりも美しい」  私の告白に、辰巳は驚いたように目を見開いた。 「嘘だ!」 「いいや、辰巳、君は美しい」 「嘘だ嘘だ嘘だ・・・・・・ん」  私は辰巳の唇に接吻して黙らせた。  辰巳は私のその行為によって、また体を震わせた。 「や、やめ、ふちゅ・・・・・・」  辰巳は私の腕の中から逃れようと身もだえする。  しかし私は辰巳の体をギュッと抱きしめ、けして離さなかった。  ・・・・・・それから、何時間が経ったのだろうか。  何日、いや何週間にも感じた。  辰巳は汗びっしょりになりながら痙攣し、私の腕の中で震え続けていた。 「ハアハア、分ったか辰巳、私の愛の深さが」  私も長時間の接吻に、すっかり消耗しきっていた。唇が腫れて膨らんで、空気に触れるのが分るくらい敏感になっている。  私にとって、それは初めての接吻だった。テクニックも何もない、ただ情熱にその身を任せただけの動物のような接吻だ。しかし辰巳には、それでも十分すぎるほどの刺激だったようだ。 「ぼく、わきゃらな、わからにゃいの、ばかになっちゃう、ばかになっちゃう」  私たちは接吻に夢中で、すでに辺りは真っ暗になっていた。 (ぷーん)  季節は夏だった。メスの蚊が一匹、出産の準備のための栄養補給にやって来た。  ペチッ 「痛いっ」  私は蚊と一緒に辰巳のツルツル頭を叩いた。 「どうだ、少しは目が覚めたかな」 「あっぼく、また・・・・・・」 「また?」 「だってぼく、すぐに人を好きになるから、それにこんなに体は敏感だし・・・・・・、それでいつも自分を無くしてボーとしちゃう、それでいつの間にか男の人に好き勝手に玩ばれちゃうんだ・・・・・・」  そういって辰巳は上目遣いに私を見上げて笑った。それは男に媚びを売る、娼婦のような笑顔だった。 「おじさんもぼくを、他の男の人みたいに玩ぶんだよね。ううん、いいんだよそれで。ぼく、そういうの慣れてるし・・・・・・。きっとぼく、おじさんに命令されたら何でも言うこと聞いちゃうな。だってもう、ぼくはおじさんのこと好きになっちゃったみたいだから・・・・・・。それでぼく、きっとまた泣かされるんだ。おじさんに玩ばれて泣かされる。でも、もういいんだ。いいんだそれで、だって気持ちいいから、おじさんが気持ち良くしてくれるから。おじさん知ってる? 男の人に好き勝手に玩ばれるのって、とってもとっても気持ちいいんだよ。だからね、おじさん、おじさんもぼくの事、好きにしてくれていいんだよ」  辰巳はまるで、堕落しきった人間のように媚びて言った。美しい外見に隠された、それが辰巳の本性だったのだ。  しかしそんな辰巳に、私は失望はしなかった。むしろ愛しくさえ思った。それに、そんな事で失望してしまっては、本当に辰巳の言ったとおりのその辺の軽薄な男ではないか。それは私のプライドが許さない。私は辰巳の想像の上を、遙かに超えていかなければならないのだ。 「いいんだ辰巳、それよりもここは少し冷えすぎるな。場所を変えないか」  私たちはまだ、美少女転生岩のほとりにある崖の下にいたのだ。 「くしゅん」  辰巳は大きく、くしゃみをした。  辰巳の鼻からは、だらしなく鼻水が垂れた。 「ほら言わんこっちゃない。これで拭きなさい」  差し出した私の手には、自分のために用意していたゴシック調のメイド服が握られたままだった。 「いや、ダメだ。これじゃ無かった、こっちだ」  私は反対の手で、ジャンパーのポケットを探ってポケットティッシュを取りだした。そして辰巳の鼻をかんでやった。 「そうだ辰巳、寒いならこれを着てみろ」  私は手に持っていたメイド服を辰巳に渡した。  このメイド服は、自分の転生のために用意しておいた大事なメイド服だった。 「これを、ぼくに・・・・・・。でも、これはおじさんの大切な物なんじゃ無いの」 「いいんだ、もう私には必要ない物だ」 「ありがとうおじさん、それじゃあ早速着てみるね」  辰巳は渡されたメイド服を袈裟の上から羽織った。  ちょうど良く大きめの袖に付いたフレアーが、小柄なために開きすぎてしまう辰巳の袈裟の胸元を上から覆い隠した。カラーも袈裟と同じモノトーンで統一されていて、それは最初から辰巳のためにあつらえられていたかのように完璧なコーディネートだった。 「えへへ、似合うかな?」  辰巳はコーディネートが気に入ったのか、私の前でクルッと一回転して見せた。 「ああ、よく似合うよ」  私はうなずいた。 「ねえ、何だかぼく、出家する前の普通の男の子に戻ったみたいだよ」  辰巳は照れながら笑った。  その笑顔は、辰巳が私に見せた初めての屈託の無い笑顔だった。  辰巳が言った出家する前の普通の男の子・・・・・・、それは堕落する前の汚れを知らない辰巳のことだろうか? 私はそれを思い、胸がすこし締め付けられた。 「さあ、準備が出来たなら行こう。私が背負っていってやる」  私は辰巳の前で背を向けて跪いた。  辰巳は何も言わず、私の背中に体を預けた。 「くふう」  敏感な辰巳が声を上げた。しかし辰巳は背中から離れずに、そのまま私の首に腕を回した。そうしてもっとしっかりと密着しようとする。  私は立ち上がり、ゆっくりと崖を登り始めた。 (おじさん・・・・・・ぼくはおじさん専用の、おじさんの肉便器になるよ・・・・・・)  辰巳が小さな声で言った。 「うん、いま何か言ったか?」 「ううん、何でも無い・・・・・・」  辰巳の体は軽かった。しかし寄り添う辰巳のその重みは、実際の重さ以上の充実感を私に与えていた。 (ああこの重さだ。この重さこそが愛情と責任を背負う者が感じる、人生の重さなんだ。この重さこそが私に生きている実感を感じさせ、困難に立ち向かう勇気を与えてくれるのだ・・・・・・)  崖を登る私たちの背中を後押しするように、顔を出した朝日が二人の前途を祝福していた。  ビチグソ転生、その後・・・・・・  呪いの通りクソまみれになった私は、その後の人生をまるで転生でもしたように精力的に生きた。  私は名を「ベンジャミン・フランクリン」と改名した。そして保守的な日本を辰巳と共に脱出し、遙か彼方の自由の国「アメリカ」を目指した。  アメリカにたどり着いた私たちはその後も様々な困難に直面するが、それらに見事打ち勝っていく。そして最後には、アメリカの大統領の地位にまで登り詰める。  権力と身の安全を手に入れた私たちは子作りに励み、辰巳は十人の子供(タツノ・オトシゴ)を産んだ。  子供達はそれぞれ、インディアン、モンゴロイド、アーリアン、ユダヤン、アフリカン、コーカサス、チベタリアン、バイキング、アボリジニ、コロボックルと名付けた。  私は成長した子供達を世界各地に派遣し、その地の開拓を命じた。  そしてこの世界に、日本とアメリカ以外の個性豊かな国が次々と誕生していった。  これがビチグソワールドの、創世の神話である・・・・・・。  ビチグソ転生  第一部 補完  ご愛読ありがとうございました。  作者都合によりちょっと休憩します。  第二部の始まりは、水浴び辺りからと考えております。 予定「ブラカスちゃん殺害の容疑者として逮捕された便器ちゃん、ビチグソ裁判所でエメドラちゃんから語られた事件の真相とは?」  
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