最悪の贈り物

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いま思えばもったいないことをしたと思う。稼ぎもあって顔立ちも整っていて、まわりの友達からも羨ましがられていた。 でも、あの言葉は許せなかったんだから仕方ない。 そうして2週間前に最愛の彼氏に振られ、その反動か仕事でもミスが増えた。 上司から呼び出されて、「簗瀬さん。やる気ないなら来なくていいんだよ。いらない仕事増やさないでくれよ」とあきれ顔でお咎めを受けたのが1週間前。 それから今日まで、財布を落とした、大切に使っていたキーホルダーが壊れた、満員電車で気持ち悪い親父に痴漢まがいのことをされたりと悪いことばかり起きてきた。 人間は嬉しいことよりも嫌なことに意識が傾くとはよく言ったものだ。たしか心理学の実験で証明されていた気がする。 本当にその通りだと思う。きっと彼氏がいなくなってから今日までの毎日と、彼氏がいた毎日にそれほど差はないのだろう。なのに、最近の嬉しかったことは記憶にない。思い出せるのは、自分は不幸な人間なんだなと思うような出来事ばかりだ。 だけど、今日はいい日になるはずだったんだ。 大学時代からずっと仲がよくて毎日のようにお話ししていた友達とご飯に行く予定だった。 大分前から決まっていて、わたしは今日をとても楽しみにしていた。 だから、会社で理不尽に怒られても、嫌いな同期から自慢話を延々と聞かされても、あとちょっと、もう少し、今日は必ず定時で帰るんだと思ってなんとか乗り切れた。 淡々と仕事をこなし、いつもよりミスも少なく今日の業務を定時ぴったりに終えたわたしは「お疲れ様でーす」と言ってさっさと会社を出てきた。 もしかしたら後ろで先輩たちが「は?もう帰るの?」とか「先輩の仕事手伝えよ」とか言っていたかもしれないが、そんなことは既に外にいる私には聞こえないし、私の雇用契約書には記載されていない。 わくわくして駅に早足で歩きながらLINEを確認する。 『ごめん、彼氏と会う約束入れてたの忘れてたからまた今度…!』 はあ…。なんだよそれ。 私と約束したのは2ヶ月も前じゃないか。それなのに何が彼氏だ。もう怒る気にもならない。 彼女にとって私はその程度の人間だったのだろう。もう何もかもどうでもいいや。 「お酒買って帰ろ」 そう独りごちて、OKとでかでかと書かれたスタンプを送り携帯を鞄にしまう。
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