1 月夜の吸血鬼

44/44
77人が本棚に入れています
本棚に追加
/416ページ
吸血鬼が主を得るとき、対象に恋させることが手っ取り早い。 体面上は主従関係になるが、恋した相手を死なせたくないと思うのも人の心というものだ。 だから、真紅が自分をすきになってくれるのなら、それを利用して真紅を生涯の主に出来るかもしれない。 ……そんな邪な思いが身の内を過って、しかし頭を振った。 駄目だ。俺はこの子を失いたくない。失いたくないから、離れていなければ――離れなければ。 憧れた少女。生きて恋して、自分じゃない生涯の伴侶を持って、その人との子を授かって、憧れた生き方をしてくれ。 そして最期の時だけ、俺のもの。 最期に手をつないでいるのは、俺だ。 ……それだけの約束があれば、俺は生きていけると思うんだ。 もしも今、自分の中にある感情に名前がつくのなら。 感情に名前がつく前に、ここを去らなければ。 ……結ばれない多くの恋の中に、今、沈もう。
/416ページ

最初のコメントを投稿しよう!