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カクルとマユナ
カクル、と僕の名を呼ぶ女性の声がする。目が覚めると、栗色の瞳で心配そうに僕の方を見つめる姉の顔があった。マユナだ。
「マユねぇ、今日は何日。」
「1158年、5月18日よ。」
「今日の幾何学占星術の結果は。」
「あなたの星、サナトリア星が79番、106番目が私のソリット星。カクル、いい加減自分で占えるようになってちょうだい。いつまでも私が答えを教えていては......」
「分かっているさ。でも、先にやらなくちゃいけないことがあるんだ。」
「いっつも勉強は二の次なんだから。......それにしても、随分とうなされていたわね。今日は、とりわけ。母さんの......命日だからかしら。」
「そうだね。母さんがサオに殺された日さ。」
「......随分と、うなされていたわね。今日は、とりわけ。母さんの......命日だからかしら。」
「そうだね。母さんがサオに殺された日さ。」
途端にマユナの顔色が変わり、褐色の肌に血の気が昇る。震えた手で思い切り僕の頬を引っ叩いた。
「あんた......そんなこと二度と口にするなって言ったはずでしょ。」
「――でも......間違ってるよ、こんな世界。」
「じゃあどうするの。私とあんたでサオに反抗しに行こうか。謀反の罪で沼に沈められるだけじゃない。いい、カクル、これは......これは、仕方がないことなの。」
「仕方がないで、済まされる話なのか。」
「辛いのは、あんただけじゃないんだから。......約束して。もう二度と口にしないと。」
僕は叫びたくなるのを押し殺し、口をつぐんだ。
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