2人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと見た、鮮烈な。
聞いただけで思わず嫌悪感を覚える声だった。
どんなことをしてるか、知れたものじゃない。僕の頭は後ろ暗い妄想ばかりで埋め尽くされていくけれど、それを現実でするようなやつには関わり合いになりたくなかった。
だから、僕はその一部始終を携帯で撮影しようと思った。
どんなことをしでかしているのか、何をやらかしているのか、何が起こっているのか、どんな顔で、どんな状態で、そのすべてを記録してやろうと思った。・決して後ろめたい願望があるわけじゃない。決して、好奇心なんかじゃない。これはあくまで正義感で、少しでもこんなことをしでかしたやつを捕まえる助けになれば……そういう思いで……
「うんうん、そうそうそう……可愛いね、あぁ、可愛いよ、ふふふ」
だから早く、カメラを向けないと!
急いで携帯を構える。携帯を取り出す手元が覚束なくて、それでもどうにか取り出した携帯を、どうしようもなく震える手で構える。早く、早くしないと、早くカメラに切り替えて、早くレンズを向けて、早く撮影しないと……!
じゃなきゃ終わる、こいつのしていることが終わってしまう。早く撮らなきゃ、早く録画しなきゃ……!
「あっ……!」
そんな!
なんで、よりによってこんなときに!?
覚束ない手元でカメラを起動して、写真モードからビデオに切り替えようとしたときだった。指がもつれて、手が滑った。
手のひらからこぼれ落ちて、携帯が宙を舞う。
受け止めようと伸ばした手が、逆に携帯を弾き飛ばしてしまう。しかも、よりによって橋の真下――赤いランドセルの子にどうにかしている男の視界に入ってしまう場所へ。
「ぁ、――――」
拾いに行く暇もなく、携帯が僕の手を離れていく。無様に転がって、草むらを駆けていく。
駄目だ、もう終わってしまう……!
早く見なきゃ、駄目だ、まだ終わるな!
もうちょっと待ってくれ、まだ、あと少しだけでいいから……っ!!! ちょっとだけでも、見せてくれよ……っ!
けれど、そんな願いなんて通じるわけがなかった。
慌てたように去っていく足音を追いかける暇なんてなくて、残されていたのは、たったひとり。
「………………、」
「あんた、誰? ずっと覗いてたの?」
そこにいたのは、パッと見た瞬間女の子に見える、華奢な感じの男の子だった。
最初のコメントを投稿しよう!