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あまりに眩しくて、惨めで。
「あんた、そんなとこで何してんの?」
「えっ、あぁ、いや、えっとね?」
橋台の陰にある暗がり。そこで赤いランドセルを背負っていた子を追いかけてきたら、現れたのは男の子だった。一見するとほんとに、声変わりさえしていなかったら女の子に見えてしまうようなその子を、僕は携帯を拾おうとしたわりと無様な体勢で見上げた。
声が変わっていると言っても、まだ変わり始めたばかりの段階みたいで、ボーイソプラノ、という呼び方がギリギリ通用しそうな、ちょっと高さの残る掠れた声だった。
一瞬だけ僕の手元に視線をやったあと、何かを言おうとしたから、僕は咄嗟に口を挟んでいた。
「え、えっと! いつもこの辺通ってるんだけどさ、なんか何してるんだかわかんない人がいたからちょっと怪しいなって思って、つ、通報しようかな、って……」
苦し紛れの言い訳だなんて、言われなくてもわかってる。
居間になればわかる、僕のとった行動は本当に助ける気のあるやつの行動ではない。僕がしようとしていたことは、もしかしたらさっき立ち去ったやつよりももっと……。
「ふーん、そっか。なんか、あー、ありがとな?」
そんな言い訳でも、まだ小学生だから信じてくれたのだろうか、その男の娘はちょっとだけ照れ臭そうにしながら、そうお礼を言ってくれた。むしろ、お礼を言いたいのはこんな言い訳を信じてくれた君にこそなのに、と思いながら僕は「大丈夫だった?」と声をかける。
……どうしよう、我ながら虫唾が走る。
それでも、彼は「あぁ、まぁ、ぶっちゃけ慣れてるし」と低く呟いてから、「まぁ余計っちゃ余計なことだったけどさ、あれで小遣い貰ってるし。でも、なんか嬉しかった。ありがと!」と眩しい顔で笑ってくれた。
真正面から受け止めるにはあまりにも眩しすぎるその笑顔に、僕はほんの少しだけ安心してしまった。
だから、彼の言葉に咄嗟に何も言えなかった。
「今の言葉が嘘でもさ、誰かに心配されるなんてなかったから、嬉しかったよ!」
もう、消えてしまいたかった。
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