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無慈悲に、優しい
それなのに、どうやら僕の薄っぺらい心配の言葉を信用してしまったのか、彼は僕にいろいろなことを話してくれた。
まず、彼の名前は丹沢亮二であること。彼はあまり裕福とは言えない家庭で育っており、時々小遣い稼ぎとしてそういう趣味のやつらに写真撮影を許していること。
そして……。
「ま、それだけじゃ済まないこともあったけどさ、その分の金は追加でぶん取ってやったから、プラマイゼロってやつ? だからさ、そんな顔すんなって」
「…………え、」
亮二くんの顔が、なんだか複雑そうに歪んでいる。
僕は、いったいどんな顔をしてるんだ……? 自分では全然見えない顔に、亮二くんの少し冷たいがそっと当てられる。
「頼むからさ、他人のことでそんな泣きそうな顔しないでくれよ。話を聞いただけのあんたにそんな顔されたら、それをずっと続けてる俺は……立場がなくなる」
俯く亮二くんに、僕は何も返せない。
だって、あまりに重かった。
彼がこういうことをしている間、僕は嬉々として幼稚な妄想に耽って、自己満足に浸りながら、あまりに平々凡々な人生を送ってきていた。きっと僕がさんざん読んだりして消費してきた中に、亮二くんのようなシチュエーションはあったと思うんだ。
安易に享受して、短絡的に楽しんで、そんな毎日のなかで、きっと彼のような存在がいるリアルなんて想像すらしていなかった。
リアルでありそうだけど、結局は現実味のないファンタジー。そんな風にすら思ってしまった。目の前にいるこの少年が、話している限りだと少なくとも1年以上、目の当たりにして実感している現実の出来事だなんて、思いたくなかったんだ。
僕には、受け止められるわけがない。
こんなのいくらなんでも重すぎる。支えきれない……!
立ち去ろうとした僕に、不意に亮二くんが言った。
「なぁ、あんたさ、名前は?」
「え、……吉岡 修吾、だよ……」
「そっか、えっと、じゃあ修吾」
いきなり僕を呼んだ彼は、少し躊躇いがちに口を開いた。
「お礼のしかた他にわかんないからさ、特別にタダで撮らしてやるよ。リクエストとかならいくらでも受けるぞ?」
少し照れたような顔に、何故だろう、胸がひとつ、大きく跳ねたような気がした。
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