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痛くて、仄甘い
亮二くんの申し出に対して、僕はどうすればよかったんだろう。かっこつけて断ることもできたかも知れない、偉そうに諭して家に帰すこともできたのかも知れない。もちろん、本人も納得させるようなやり方で。
けど、僕にはそんなことはできなかった。
ただ流されるように曖昧な返事をして、亮二くんに促されるまま、カメラを構えることしかできなかったのだ。
「ほら、あんま遅くなると親にあれこれ訊かれちまうし、手っ取り早く済ませよう、シューゴ!」
たぶん僕のさっきの反応のせいで、亮二くんは僕のことを信用しきってしまっているようだった。もちろん、彼のそんな信頼を裏切るつもりなんて毛頭ない。亮二くんが「これでお礼になった」と思うだろうところで切り上げて、できることなら自宅まで送り届けて帰ろう。
そう思っている、それは本当なんだ。
だけど、同時に。
「じゃあ次はさ、ちょっと足開いて立って。うん、それでこっち振り返ってくれる?」
「おっけー!」
その無邪気な信頼を、どこか人を食ったような、何があっても予想の範囲を抜けないとでも言いたげなその柔らかそうな笑顔を、戸惑いの色に染めてしまいたくなった。
すぐに吐き出してしまいたくなるような、醜い欲望だった。もちろん、僕はポーズだけ指定して撮影を続けるけど、ふと思ってしまう。
彼は、こうやって撮影する合間に、何人もの大人に身体を許してきたんだろうな……と。
なら、僕だって少しくらい……と。
そんなこと、するわけにいかない。
彼を失望させたくなかった。
せっかく信頼されたのを裏切りたくなかった。
あぁ、けど、見れば見るほど女の子みたいに見えてくる。一応私服はまた別にどこかに置いてあると言っているから、完全に撮影用の服なのだろう。所々レースのあしらわれた服をこんなに着こなせる男子小学生なんて、そうそういないんじゃないか……?
もう少し、あと少し。
欲張りな心が、苦しいくらいに叫び続ける。
きっと、その声にならない声が、亮二くんにも聞こえてしまっていたに違いない。少し俯き加減になりながら、小さな声で。
「…………別に、シューゴなら、いいけど?」
「えっ、」
その言葉に、一瞬世界が止まったような気さえした。
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