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痛ましく、愛おしい
「えっ……」
そう言われたことに――言わせてしまったことに、僕は恥じ入るべきだった。亮二くんがどんな顔をしてそう言っているのか、そんなの見なくたってわかるくらい、想像に難くなかったはずだ。
けれど、僕にできたことといえば、また――そうまた、自分の意思を保留して相手に委ねることだけ。
えっ、なんて。
あたかもそんなの期待してもいなかった、意外だ――そう言わんばかりの台詞を吐いたところで、亮二くんが感じ取ってしまった僕がなかったことにはならないのに。
だから、僕は。
「――――、」
頭上を通り抜ける電車の音に紛れさせることでしか、返事のしようがなかった。枕木を踏みつける轟音に紛れ込ませないと、とても聞かせられるような答えではなかったから。
そして、そんなことをしておいて。
卑怯に卑怯を重ねたような振る舞いをしておいて、僕は本当に煮え切らないやつだった。
声を聞かせまいとした僕の本音を察して、泣きそうな顔をしながら応えようとしてくれた彼に「そんなことしなくていいよ」と言った。
あぁ、なんだろう、この言葉の軽さは。
「僕は、亮二くんにそんなことをしてほしくてここに来たわけじゃないんだ。それに、嫌々することじゃないよ。そういうのは、本当にしたい人としなきゃ」
なんだろう、こんなに空虚な言葉を吐くのか。
「話なら聞くからさ、ごめん、僕も調子に乗りすぎた。こんなの……いけなかったよな。もう、終わりにしよう」
僕は、こんなに薄っぺらいやつだったのか?
「何かあったら話とか聞くからさ、連絡先だけ交換しない? そしたら、まぁ、僕わりと暇人だからさ」
そのくせに、こんなに厚かましい。どの面下げて、関係を繋ごうとしているんだ、僕は……!?
「そっか……、そうだよな、ごめん、シューゴ」
「…………いや、」
駄目だ、亮二くんの顔をまともに見られない。僕を責めているだろうか? 軽蔑しているだろうか? 失望させただろうか? 違う、全部君のことを……想って……そう言わせてもくれない。
何かを諦めたような笑顔が胸に痛くて、せめて帰り道は楽しい話題でいっぱいにしたいと思ったけど、帰り道の会話はどこか気まずさとぎこちなさが満ちていて。
「じゃ、またな、シューゴ!」
「うん、またね、亮二くん」
そう言って自宅に帰っていく彼の姿を、僕は黙って見送ることしかできなかった。
後に残されたのは、彼について普段立ち寄らない住宅街に入り込んだ異物のような僕を照らす赤々とした夕陽と、赤く染まったアスファルトに呆然と立ち尽くす無様すぎる僕の影だけだった。
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