出会いは、夕暮れ時に

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出会いは、夕暮れ時に

 はぁ、疲れた。  最近――いや少し前からだろうか、何をしていても二言目には「疲れた」が口をついて出るようになってしまった。  別に、何かすごく疲れることをしているわけでもない。他のみんなと同じように大学に行って、講義を受けて、それから友人たちと遊んだり、バイトをしたり、きっと一般的なキャンパスライフを送っているだけだ。  それで今日はというと、唯一バイトとかサークル活動とかそういう予定のなかった友人が急遽彼女とデートだとか言って帰ってしまったので、なんとなく収まりのつかない気分をぶら下げて大学近くを歩き回っていたのである。  そんなことしていないでさっさと帰れば、と思わなくもなかったが、今日はその友人と少し飲んでから帰ろうと思っていたので、気分的にそのまま帰るのは(はばか)られたのだ。なんとなく、もったいないような気持ちだった。  だから、大学近くの神社だったり、僕の住む地域よりだいぶ裕福そうな家並みだったり、わりと有名になっている庭園だったりをぼんやり見ながら、ただぶらぶらと、暇を潰すために歩いていた。  少し歩いて、高いところからじりじりと熱い視線で僕らを見下ろしていた太陽がかなり地平線に近づいた頃。  歩いているうちに、川を渡る鉄橋に差し掛かった。と言っても渡れるのは電車だけで、歩行者が渡ろうとすればそこから目視で大体20分くらい歩きそうな位置に見える別の橋を使わなくてはいけない。  …………さすがに、疲れた。  ちょっとだけゆっくりしてから、大人しく駅まで戻って電車で帰るか。  そう決めた僕は、さほど高くない土手に設置されたベンチに腰かけて、ただぼんやりと川の流れを見ていた。この川に流されていったら、どこに辿り着くんだろう? その頃には多少疲れもとれてるかな?  そんなことを思っていたときだった。  土手を下りたところにある、ちょっとしたバーベキューやら花火やら遊ぶのにちょうど良さそうな川べりの地面。ちょうど僕の位置からだと橋台の陰になってよく見えない橋の真下だった。  チラッと、赤いランドセルのようなものが見えたような気がした。  どうしてだろう、それがなんだか見逃してはいけないような気がした。  だから、僕は。  疲れたまま何もしない、いつも通りの安全な日常から、踏み出してしまった。
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