客人の正体

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客人の正体

 『髪の毛』って大事だと思うのよね。  髪型ひとつで、人間って随分とイメージが変わるもの。テレビに出る芸能人がワックスで髪型をガッチガチに固定してるのも、そうしたイメージ戦略の一環だわ。  身長も顔面偏差値も低いクラスの男子どもが、モテもしないクセに前髪作るのに苦労しているのも、それが理由。  けど。  この眼の前にいる『お客人』とやらは、その大事な『髪』が一本も無い。 にも関わらず、ハッキリと分かるほどの『イケメン』……  切れ長で大きな眼は優しく開かれていて、鼻筋は高くピンと通り、面長な顔立ちで何より肌が男とは思えないほどキレイなの。  そして、何処か張り詰める空気感‥‥。  ヤバいわ、これは。  私、さっき心の中で『間違いがあったなら』とか思っちゃったけど。  仮に二人だけしかいない時に『同時に同じものを取ろうとして』身体がブツかり『重なるように倒れこんだ』と、するじゃん?  そうなったら、理性が保てるかどうか分かったものじゃないと思うわ……そう、私の方が。  そんな『壁ドン』ならぬ『床ドン』シチュエーションなんて、漫画の中で少なくとも100回は見た事あるし。 「……何だ、お前? 妙な顔して」  お父さんの声で我に変える。 「え? いや、べ、べ、別に! ただ、修行僧って言う割りには若いなぁーて思ったから!」  慌てて誤魔化す。 「若い? ああ、それはそうだろう。何しろ、この快道(かいどう)君はお前と同い年だからな」  ほう!快道君って言うんだ、このイケメン坊主は。  ‥‥え? 『同い年』って、18って事?  そりゃ、若いけど‥‥その歳で『修行僧』とかしてるの?  何、その天然記念物的な絶滅危惧種は!  「快道君、紹介しよう。娘の美樹だ。よろしくな!」 「美樹さんですか。拙僧は慶羽快道と申します。本日より暫くの間、こちら様のお寺でご厄介になる事になりました。よろしくお願い致します」  そう言って、イケメン‥‥でなくて快道君が合掌しながら剃髪された頭を低く下げる。  うわ、何か後光を感じるわ。‥‥別に頭がアレとかじゃなくて。 「ああ、それとな」  快道君の背中を、お父さんが抱き抱えるように掴む。  うーむ、人間と類人猿は共通の祖先から進化したというが‥‥なるほど、こうして二人を並べて見るとそれが良く分かる。  おっと、片方はゴリラじゃなくて『お父さん』だったか。 「快道君はうちの寺に居る間、お前と同じ真秀場学園に通うからな」  え?‥‥何? 何て言ったの? 「彼は中学を卒業して、すぐに出家したからね。だが、本山の阿闍梨(あじゃり)様が『志は見上げたものだが、それでは学問が不足する』と仰せでな。そこで、我が万才宗と(ゆかり)の深い真秀場学園に『在籍』という形になっておる」 「……ええ、実はそうなんですよ。とは言っても拙僧は修行中の身。普段の授業には出られないので、講義内容をPDFにしてメールで私のPCに転送して貰っているのです。それで勉強してレポートを提出して『出席の代替え』として貰っているのです」  PDF?メール? ほえー、今どきな『修行』だなぁ‥‥いや待て。  『籍だけあって、出席していない』ウチの学園生って……何処かで聞いた話じゃないのか?  そう、我がクラスに居る『座敷わらし』の正体って‥‥。  マジかよ‥‥座敷わらしの正体は、まさかの『妖怪・イケメン修行僧』だったとは!  その時、ふと納屋の床に細かい『木屑』が散らばっているのを見つけた。  ‥‥何だ、これ? 戦時中に焼け残った納屋だと聞いていたが、ついに崩壊を始めたのか?  すると、妖怪・イケメン修行僧が照れくさそうに彼の足元にある四角い『木材の塊』を指差した。 「ああ、その木屑ですか。彫刻刀の研ぎをしていたので、試し削りをしておりまして。‥‥実は、拙僧は全国の寺を周りながら『仏像彫刻』の行脚をしているのです」  『仏像彫刻』だと‥‥?  天然記念物、絶滅危惧種……そして妖怪?  そのどれを以てしても、その意外性を上手く表現できないボキャブラリーの貧しさが歯がゆくてならない。  ……あのー、もしかして『異世界からの転生者』とかじゃ無いですよね?
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