そして、雨が上がる時。

2/5
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
『みんな、友達同士で班が作りたいって言ってるから。真理雄君のわがままだけ聴くわけにはいかないのよ。ほら、真理雄君も仲の良いお友達を作りなさい。いつも一人でいないで、その方がずっと楽しいから……ね?』  冗談じゃなかった。どこをどう見たら、僕が好き好んで一人でいるように見えるのだろうか。  僕だって友達を作りたいのに、どうすれば作れるかがわからない。みんな、僕が近づくと“キモい”だの“デブ”だのと言って逃げていくのに、一体どうやって仲良くなれというのだろう?  その言葉がきっかけで、僕は学校に行かなくなった。最初はコンビニくらいには出歩いていたが、次第にそれも億劫になってしまった。平日の、学校がやっている時間で、外を歩いている子供がいたら不審に思われるのは目に見えている。学校に行っていないだの、家に問題があるだの、妙な噂を立てられたり笑いものにされてはたまらない。僕は土日以外にけして出歩くということはしなかった。土日も、ほんの少し近所の本屋に行くことがあるかどうか、というくらいである。  そうやって、僕は実質ひきこもりになった。それが、小学校五年生の時のこと。今から一年前のことである。  特段ゲームが好きだったわけでもないし、ネットがやりたかったわけでもない。ただ、家にある漫画を読み尽くしてしまったら、何度も繰り返しできる無料のオンラインゲームやTVゲームをやるくらいしか時間の使い道がなかったというだけである。  ゲームをやって、のめりこんでいる時間だけは僕が僕であることを忘れることができたと言っていい。  空想の世界では、剣と魔法で戦うチートなヒーローにもなれたし、勇敢にモンスターを倒して可愛いヒロインに愛されるイケメンにもなれた。現実の、チビでデブで、誰からも好かれない僕とは違う。僕は僕自身のことが世界で一番大嫌いだったのだ。  そうして、本来ならもうすぐ小学校を卒業する――そんな季節が迫って来た時のことだ。その日は土曜日だったが、僕は出かける気にならずずっと家にいた。元々外に出る頻度は下がっていたが、それ以上に大きな理由がある。その日は一日中雨が降っていたのだ。春には珍しい、大粒で勢いのある雨です――とかなんとか、テレビでは言っていた記憶がある。 「真理雄、そろそろ部屋から出てみない?ほら、もうすぐ中学生になるんだし」  食事だけは、気まぐれに両親と一緒に取ることもある。その日も特に機嫌が悪いわけでもなかったので、夕食は父と母と一緒に取っていた。 「中学生になったら、今までの小学校とはだいぶメンバーが変わるんだし。環境も変われば、真理雄が嫌な人も減るから……少しは行きやすくなるんじゃない?部活動とか、楽しそうだし、中学校から行ってみたら?」  きっと。その話をするタイミングを、ずっと母は図っていたのだろう。父が母の顔を見ることもなく、ただじっと僕の方を見ていたということは――それは父の意見でもあったということである。  中学から、もう一度学校へ行く。不登校を卒業するにはいいタイミングだと思ったのだろう。いつまでも引きこもりでいていいはずがない、このままでは社会でやっていけないし世間体も悪い――僕だってそれくらい、想像ができなかったわけじゃない。でも。 「……なんで、行かなきゃいけないんだよ」  一瞬でも、もう一度学校に行くことを想像した途端。僕の目の前は、いきなり夜になったように真っ暗になった。 「学区、小学校とかなりカブってるんだぞ。公立中学なんだ、あいつらだってたくさんあの学校に上がってくるんだぞ……!またあいつらと顔を合わせなきゃいけないなんて嫌だ!あいつらの中の、一人でもいるところに行ったらまたイジメられるに決まってんじゃん!!」 「でも、真理雄!いつまでもこれでいいと思ってるの?!」 「思ってねぇよ!思ってないけどどうしろっていうんだよ、またイジメられるためだけに学校に行けってのかよ!!」 「そんなこと言ってないし、イジメられるって決まったわけじゃないでしょ!?」 「決まってるんだよ、だって結局何も解決してないんだから!!」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!