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どうして母は分かってくれないのだろう。僕を虐めていたクラスの連中は、全く反省していないに決まっている。そもそもあの先生の態度だ、クラスでイジメがあったことにさえ認めていないのは明白である。
そんな反省も後悔もしていない奴らがまた僕を見たら、確実に同じことを繰り返すではないか。どうして、いじめられた被害者が泣き寝入りをしていなくちゃいけないのか。どうして虐めた加害者どもが大手を振って歩いているのか。どうして僕が、僕の方ばかり苦しい気持ちを我慢しないといけないんだろう。何で僕が。僕ばかりが。
――もっと背が大きかったら良かったのかな。もっとイケメンだったら良かったのかな。もっと痩せてたら?運動ができたら?成績が良かったら?それとも……友達を作るのが、上手だったら?
「なんで、僕なんか産んだんだよ……僕なんか生きてたって、いいことなんか何にもないじゃん!」
「おい、真理雄!なんてこと言うんだ!」
「うるさい!!」
流石に父が声を荒げたが、もう僕の耳には何も入ってこなかった。何を言っても、全部否定されるだけ。誰も僕の本当の苦しみなんか分かってはくれないのだ。
そう思ったらもう、何もかも馬鹿馬鹿しくてならなくなった。僕はそのまま立ち上がると、脇目も振らずに玄関に走り出した。
「ま、真理雄!何処に行くの!」
母が慌てて追いかけてくる。多分、彼女も彼女で混乱していたのだろう。荷物も何も持たずに飛び出そうとする僕に、パニックになった様子で傘を押し付ける。
「そ、外雨よ!せめて傘……!」
「いらないっ!そんなガキみたいな傘!!」
彼女が渡そうとしてきた青い水玉模様の傘をはねつける僕。それは、母が小学校低学年の頃に誕生日プレゼントに買ってくれたものだった。もうだいぶ小さくなってしまったそれは本当に使いにくくて、新しいものをどうして買ってくれないんだと少々ごねた時もあったけれど。
そもそも、雨が降る日に出かけなくなったのはいつからだろうか。
あの傘を買って貰った頃はまだ、仲の良い友達もいたし、雨の日だって楽しく出かけられた時もあったというのに――。
――何がいけなかったんだよ、何が、何が!
母の声を無視して、僕は家を飛び出した。後先なんか何も考えてはいなくて、ただどうしようもない現実から逃げた気にでもなりたかったのかもしれない。
雨の雫を全身に感じて、僕は泥濘んだ地面で思い切り転んで。
転んだ先が、大きな道路だった。
顔をあげた時にはもう、眩しいヘッドライドは眼前に迫っていたのである。
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