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3時間だけの恋人2
「はぁい、先輩。待ってたわー」
髪を染め、露出の多い衣服に身を包んだ後輩は、駅で出逢うなりヒラヒラと手を振りながら笑っていた。改めて自分と比べると、本当になんでこんな後輩と趣味があっているのだろう。趣味さえなければ、絶対に付き合わない人種だ。しかも、自分が苦手とする女なのに……つくづく不思議で、縁というものは分からない。
「ちょっとは申し訳ないとか、そんな素振りは見せないのか?」
「あははー。別に申し訳ないとか思ってないし。だって〝バイト〟なんだから」
先輩だってお金が欲しいでしょ? と道行く怪しい勧誘のような台詞を宣う後輩。
だがしかし、やたら〝バイト〟を強調するのは何故だろう。
少なくとも、そのバイトの内容に関して僕はまだ何一つ聞いていない。
「あの、すみません……」
「うん?」
不意に、背中から控えめな声が投げかけられた。
振り返ったそこには、一人の少女。
外見的には少し子どもっぽく高校生にも見える。
(道にでも迷ったのか……?)
正直、女という生き物は苦手だ。だが、困っている子を無下にできるほど僕の心は冷徹ではない。
「どうしたの? 迷子?」
「あ、あの……」
「あーっ! ちょうど良かった! 遅いから連絡しようと思ってたんだよ」
何かを答えようとした少女の言葉を、遮る大声が、隣りから聞こえた。
「先輩、紹介するねー。この子、私の同級生なの。そして、今日の依頼主」
「んん……!?」
(今、依頼主といったか。この後輩は……)
我が耳を疑っていた僕に対し、向かいにいる女の子は、申し訳なさそうに深々と会釈をした。
「は、はい。今日は……宜しくお願いします」
後輩とは対照的すぎる。何故、こんな気の弱そうな子が後輩と友達になどなっているのか。苛められてはいないだろうか、と思わずそんなことを勘ぐってしまう。
「はーい、それじゃあバイトの内容を発表しまーす」
ピンと人差し指を空に指し、声高々に宣言する後輩。そして、次の瞬間信じられない言葉を言い放った。
「今日は〝バイト〟として、この子とデートして貰いまーす」
「…………!」
なんの冗談だろうか。
少なくとも、後輩に対しては趣味の繋がりもあり、女が苦手だということは宣言している。なのに何故、こんなバイトを提示してきたのか。
(意味がわからない。二人してからかっているのか? だって僕は――)
「あの……」
そんなわちゃわちゃとした僕の思考を遮るように、少女は頬を赤らめながらその言葉を紡いだ。
「初めまして。……あなたを、レンタルします」
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