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3時間だけの恋人3
そして、冒頭に至る――。
「そ、それじゃあ……どこに行こうか」
あっさりと何処かに消え去った後輩を憎みつつ、僕は隣りに佇む少女に声を掛けた。
レンタル、バイト、お金、時間、デート。
ありとあらゆる単語が頭の中を駆け巡りながらも、ひとまずは依頼主の望みを叶えようと思った。
「あそこでお茶しませんか?」
そう言って少女が指さしたのは、値段設定が高いと有名なチェーンのカフェ。
町中にいくつも乱立するカフェの中でも飛びっきり高くて、しかも人が多くて入り難い。
普段ならば絶対に入ろうとは思わないカフェだ。
(商品名もなんか呪文みたいだし……)
ボソリと、少女には聞こえないよう呟きながらも、店内に入っていく。
座る場所を確保しようと店内を見回す。
店先のテラスだけではなく、店内も人がごった返していた。ギュウギュウとした圧迫感に内心表情を歪めてしまう。やはり、人混みは苦手だ。
偶然空いた窓際の席を陣取ると、荷物を置き一息吐いた。すると、
「はい。どうぞ」
「え……?」
ふとテーブルに飲み物が運ばれてきた。
一つはピンク色をした、甘そうな苺の飲み物。もう一つは、アイスカフェラテのようだ。
「カフェラテ、お好きなんですよね」
「……まあ」
確かに僕は、甘い飲み物はあまり得意ではない。そして珈琲でも、ブラックでは飲めない。だからいつも、ミルクが多めのカフェラテを頼んでいた。飲み物については何も言っていなかったのに、カフェラテを選んでくるあたり、後輩から僕の好みを聞いているのだろうか。
「ありがとう」
素直に礼を言ってから、アイスカフェラテを一口飲む。
向かいに座った彼女もまた、フラペチーノという甘そうな飲み物を口に運んでいた。
ほう、と互いに一息吐く。そして、
「ねえ、どうしてこんなバイトを?」
やはり聞かずにはいられなかった。初めに、少女から名前は聞かないで欲しい、と釘を刺されていたコトもあり、詮索することは控えたかった。
タブーだと思っても、やはりこれだけはどうしても聞いておかなければならないと思った。
「あなたに、会いたかったんです」
「…………」
迷いもなく、率直に言葉を紡ぐ少女とは対照的に、僕は思わず閉口した。
(本心、だろうか……)
同じ大学だとしても、僕は彼女のことを知らない。
むしろ、女友達などあの後輩しかいない。
それをどんなきっかけかは分からないが、こんな暴挙に出るほどのコトを僕は知らず知らずのうちに彼女にしていたのだろうか。
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