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3時間だけの恋人4
「キミに、何かした?」
端的に問いかける。身に覚えのないこととはいえ、何か傷つけるようなことをしてしまったのだろうか。それならば、こんなバイトなどをするより先に謝る必要がある。
僕のその問いかけが、可笑しかったのか。
彼女は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに首を横に振ると柔らかく微笑んだ。
「そんなことないです。ただ私が――」
「でも。キミがそんなことを言い出す意味が、理解できないんだ」
困惑した眼差しを彼女に向ける。
特に害意は感じない。けれど、女が苦手ということも相まってより疑心暗鬼になってしまっていた。
「本当に、あなたのせいじゃないですから」
まるで、それ以上言うなと言うように、彼女はフラペチーノを口にする。
この話は、ここでお終いだと暗に告げていた。
「…………」
納得はしていない。できてなどいない。
けれど〝依頼主〟がそう言うのであれば、口出しはできなかった。
自分に何かしらの非があるかは分からないが――今は、彼女を満足させるしかなさそうだ。
「……わかった。今日は、何処にでも付き合うよ」
「本当ですか……!」
まるで、その言葉を待っていたかと言わんばかりに。
ぱっと少女の顔が明るくなった。
(何なんだ……いったい)
ころころと表情が変わる彼女を、僕は正面から見据える。
そして、詮索をしないまま飲み物を飲み干すと、僕らは店を後にした。
彼女が望むまま、せめて今日一日のバイトを終わらせてしまおう。
「次は、どこに行こうか。女の子なら、可愛い物とか見に行くんじゃない?」
「そうですね。それなら……」
そう言って、少女は僕の手を引くと躊躇うことなく色んな店に入っていった。
先ほどとは違い、緊張も解けたのだろう。
雑貨やお菓子などいくつもの店に目移りしては、小栗鼠のように店に飛び込んでいく。そして店員の声かけなど気にも止めないまま、僕を呼んではウィンドウショッピングを楽しんでいた。僕には到底真似できない。
(緊張感がなくなったとはいえ……バイタリティーが凄い)
人混みにも負けず、店員との攻防にも負けず。大人しそうな外見とは裏腹に、自分の欲望のままに突き進んでいく。
(いや、大人しくはないか……)
こうして、僕を〝レンタル〟するくらいなのだから。案外――内面は違うのかも知れない。
女の子とは、時に強く逞しいものだと改めて再認識した。
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