バネジョのお嬢様が焼くパンケーキは謎の香り2

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スウェーデンのプレッタとこけももジャム 1  冬を引きずる寒さはほんの少し残っていたが、暖かい日が増えてきた。道端のイヌノフグリも微笑するように、恥ずかしそうに蕾を開き始める。ビビットカラーのブルーの花は、小さくても華やかさを感じる。 春の到来にワクワクしつつも、その一方で実は寂しさを感じていた。  峰岸君は、実家に帰省中。歩花さんはここ一週間ほど、留守だ。『白雪の木』は『close』のプレートが、かかったまま。連絡先は知っているけれど、連絡を取り辛かった。若干、厄介な性格の彼女に、何故店を閉めているんですか? なんて聞いたら、機嫌を損ねてしまうかもしれない。歩花さんは性格が読みにくく、時々理解できなくなることがある。気難しいお嬢様だけど、根は優しい。  居酒屋の『さくら』も、ここ四日ばかり、閉まっている。  その事も寂しさに拍車をかけていた。 『さくら』の店主、千谷さんと奥さんには、いつもお世話になっている。僕なんかの話し相手になってくれる。  学校は春休みだった。何をする訳でもなく、ゴロゴロして過ごす毎日。すっかり引きこもりになった気分だ。  そんなある日。太陽の位置が、もうすぐ真ん中になろうとする時刻、空腹を覚え、外へ出た。  春の日差しは充分届いており、柔らかな風が心地良い。花粉症の季節もやってくるだろう。僕は花粉症ではないものの、そんな春らしい生暖かい風のせいで、この時期はよくくしゃみが出る。 「あれ?」
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