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ヒーローになりたかった
たった一人でいいから、誰かを救うことができればいいなと思っていた。
日曜の朝にテレビでやっている戦隊モノのことをいっているわけではなくて、不思議生物に出会って魔法の力できらきら輝きたいわけでもなく、ましてや学校の花壇に人知れずそっと水遣りにいくような、そういうものでもない。
階段でこけそうになった人に手を差し伸べて助けるような、そんなことでもなくて、とにかく、誰かを救うことができればいいなと、井坂海斗という「ぼく」は思っていた。
平々凡々か特殊か、どちらかの一直線の人生を送ることができていたなら、また少し世界は違っていたのかも、と思うことはあったけれど、では平々凡々とはなんだろうと思って、特異とはなんだろうと思い始めて、考えるのをやめてしまった。
『よわむし、なきむし、ばかいとだー!』
無邪気な子供の声が、時々耳の奥で響く。
誰かにいじめられて、詰られて、泣いて帰れば優しい家族が温かく迎えてくれて。
小・中学生の頃のいじめは、高校生にもなると減っていき、友人と呼べるほどのつながりも得られるようになって、
不自由なんて、どこにもなかった。
だから、これでいいのだと、ぼくは納得することにした。
思い込むことに、したのだった。
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