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人魂が呼ぶ、死亡推定時刻
夜はまだ明けていないだろう。真っ暗な闇のなか、激しい雨音に覚醒させられた。何時頃だろうか。明かりをつけ、時計を見ると、時計の針はちょうど3時を指していた。
「なんてことだ。まだ、深夜じゃないか」俺は、独り毒づいた。
昨晩は、日付が変わってからしかベッドに入っていない。まだ、2時間くらいしか眠っていないのに。
今日も朝が早い。今からすぐ寝落ちたとしても、たった2時間の睡眠時間しか確保できないのだ。なのに、目が覚めるなんて。
「くそ雨の馬鹿野郎」再び俺は、毒づいた。他に誰もいない独りの部屋で、大声を出したところで何も問題ない。
さらに雨が激しくなったようだ。爆音のように窓ガラスを叩きつける、いやな感じの音だった。その時、カーテン越しにうっすらと明りが見えた。
カーテンを少し開け、窓に近づくとさらに明かりを感じた。
部屋は、マンションの15階だ。周りに同じ高さのものはない。何もないはずなのだ。ここは街中ではない。マンションは住宅地に出来た少し異端な高層建物に過ぎない。
思いを馳せていると、明かりはますます鮮明になってきた。窓を開けてみたい気に駆られたが、激しい雨に躊躇していた。
「こんな激しい雨のなか窓を開けたら、部屋の中もずぶ濡れになっちまう」
俺のためらいが通じたのか、一瞬、雨音が止んだ。
窓の外は静かになり、雨が止んだみたいだ。明かりが呼んでいる。そう導きがあったかのように、俺は窓を開けた。
その時、明かりはヒュッと一直線に俺に向かって来た。明かりは人魂のようで、向かって来たかと思うと俺の身体をググっと引っ張り離さない。
人魂になんで掴まれるのか。無意識に抵抗していたはずだった…。
その後、夜が明け朝になった頃
マンション下に男が死んでいるとの通報を受けて、警察による検案および検視が行われていた。
「死亡推定時刻は、おおよそ午前3時くらいでしょうか。詳しくは、解剖をしてみないとわかりませんが」
「15階の部屋から飛び降り自殺ですかね。だとしたら、近ごろ、この辺りで午前3時頃の自殺者が増えてましてね。奇妙極まりないのです」
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