転生シンデレラは午前3時まで

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 その後はいたって平和な日々を過ごし、宮廷からの招待状が届いたけれど、お義母様たちは隠すことなく教えてくれて、連れていってもくれようとする。それでは全然童話に即していない。一番大切な妖精からのガラスの靴をゲットしていない。  一人残って見送って妖精を待つことに、不安ではあったけれど妖精は現れた。カボチャもドレスも魔法で出してもらえて、念願のガラスの靴もゲットした。だけど、出発前に妖精は言った。 「魔法が解けるのは、午前3時まで」  童話では午前0時。それが3時に変わっている。微妙な変化に戸惑いつつも、延びたのだからもうけものだと、疑問を忘れて喜んだ。  宮殿へ向かう道中で、カボチャの馬車に揺られて弾む体。ドキドキしているこの気持ちが、合コンに遅れていくような気分なのかと能天気に浮かれていた。  馬車が止まって、ドアが開く。見上げるほどの門が開かれ、夢に描いた宮殿が現れた。  宮殿の大広間。日の沈んだ夜更けにも、煌びやかに照らすのはシャンデリア。100人規模の楽器隊が、王子の心を導くような甘いワルツを奏で始める。それは2階席の王様からの指令である。  心配性な王様は王子に跡目を譲ってもいないのに、王子の後継ぎまでを案じていた。この舞踏会を開いたのは王様で、すでに王子の心は冷めきっていた。  なぜなら、各地から呼び集められたお姫様は300人を超え、その一人ひとりの挨拶に受け答えること5時間である。すでに作り笑顔も疲れを越えて、お面のように固まっていた。アイドルの握手会並みの地獄である。シンデレラの登場はそんな王子に火を灯らせた。  思い描いていた通りの王子の熱い視線。転生シンデレラは、お義母様を王子の代役に、何度も練習してきたナチュラルな驚きと戸惑う表情を演じてみせた。  壇上の椅子から立ち上がる王子。入口に一人で立っている転生シンデレラ。王子はその場で立ち往生している姿を、遅れてきたことで戸惑っていると勘違いした。一直線に歩き出し、手を差し伸べると「えっ、私なの!」なんて驚く転生シンデレラの姿に初心だなって思ってしまった。  それを見ていたお義母様と2人の義姉は背筋を凍らせた。なぜなら、「えっ、私なの」までのくだりを何か月も前から練習に付き合わせれていたかだった。  シンデレラがいったい何者なのかわからない。まるでこの日を知っていたとしか思えない。得体のしれない恐怖で震えが止まらない。  3人は手を取り合って見つめ合う。言葉に出さなくても思いは同じ。実はある企みを計画していた。凄腕の盗賊を雇って留守番をしているはずのシンデレラを襲わせるつもりであった。
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