転生シンデレラは午前3時まで

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「お前は何者だ」  盗賊は戸惑っていた。 「それには答えられない」  そう告げた転生シンデレラ。顔は俯き、何故か儚げな表情。言いたくても、ここで王子に存在を知られてはいけないのである。3時まで長々と踊ってきた中で、何度も王子に問われては、はぐらかしてきた。何か訳ありな陰のある美少女を演じ続けてきたのだ。  間もなく3時。いよいよメインイベントが始まる。この場を突然去って、片方のガラスの靴を置き去りにしなければならない。  正直、転生シンデレラは苛ついていた。盗賊が現れるなんて童話にはないし、貴重な王子との時間を潰されたのだから。 「殺すぞ」  そう言って脅す盗賊に、恐れることなく丸腰で歩み寄る。盗賊が剣を向けても止まらない。剣に滴る兵士の血を見せつけても止まらない。転生シンデレラは恐怖よりも何としても魔法が切れる前に、潰しておかなければならないという焦りが上回っていた。  そんな事情を知らない盗賊たちの方が恐れ始めた。事前に転生シンデレラの義母から、この娘が恐ろしく強く、真っ向勝負では勝てないと、おびえた顔で伝えられていたからだった。  それを裏付けるように、迷いなく向かってくる姿に恐れを抱いたのだ。かなりの場数を踏んでいる盗賊たちにとって、そんなお姫様は他に見たことがなかった。  お頭はまさか回し蹴りで部下の一人が顎を砕かれるとは思いもせず、あっけにとられて傍観している間に、もう一人の部下が踵落としで床に沈む。顎と脳天に食らった部下たちの姿を目の当たりにして、とっさに両手で顔のガードを固める盗賊のお頭。がら空きとなった、みぞうち。日本を制した正拳突きが炸裂した。  白目を剥いて泡を吹き、気絶したままその場に崩れ落ちたお頭。それを見ていたお義母様は、自分の時を思い出してお腹に手を当てた。  時計が鳴った。これが鳴り終わった時が魔法が解ける3時である。転生シンデレラは急いでその場を立ち去った。もはや立つことすらできない王子が追いかけれれるはずもなく、騒ぎを聞きつけた兵士たちも恐れのあまり止めるどころか道を開けた。  振り返っても誰も追いかけてこない。少し立ち止まって様子をうかがっても誰も来ない。せっかく何度もナチュラルにガラスの靴を置き去りにする練習を積み重ねてきたのだから、誰かに見て欲しかった。だけど、もう時間がない。自分が落としたことを知ってもらうために、大きな声で叫んだ。 「ガラスの靴を落としてしまったけど、取りには戻れない。あきらめるわ」  微妙な手ごたえのままに家へ帰宅した転生シンデレラ。それでも翌朝になると宮殿でお姫様探しが始まった。転生シンデレラを探しているのだ。  見つかるまで大して時間はかからなかった。強いお姫様と聞けば、誰しもが口をそろえてシンデレラの名前を口にした。転生シンデレラの強さは地元では有名なのだ。  迷うことなく使いの者が家へ訪れ、置き去りにしたガラスの靴を持ち込むと、履いてほしいと求められた。もちろん、2人の義姉では履けなくて、転生シンデレラが見事に履いてみせた。  宮殿へと連れていかれたシンデレラ。待っていたのは近衛兵の隊長だった。転生シンデレラの強さを見込んで、入隊を求められたのであった。王子は転生シンデレラを遠巻きで眺めて、決して近づこうとはしなかった。               おしまい
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