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顔を上げると、そこには映司と光太郎がいた。
「お前ら、来てくれたのか?」
「当たり前じゃん! しかも、宏人みたいに無鉄砲じゃないし」
映司が得意げに言うと、数名の警官がそこに立っているのが見えた。
「しかし本当に信じられないな! さっきまで穴があったのに!!」
若い警官の一人が目を大きく見開いて問うので、光太郎は言った。
「その穴から安西くんを救うために、根本さんが勇敢に立ち向かって。その根本さんを救うために、宏人がたった一人で山に入った。……美しい友情じゃないですか」
さらに俺たちは、映司と光太郎に救われた。持つべきものは親友だ。子どもにしか山の穴に遭遇できないということは、反対に大人が近くにいれば、俺たちは安全というわけなのだろう。二人はそこまで考え、大人を連れて来てくれたのだ。
……カラスは餌を取るために小石を犠牲にしたし、山の穴の件だって、過去に多くの子どもたちが犠牲になった。
だけど本来なら、俺たち二人の内のどちらかは山の穴に飲み込まれ、そのまま永久に出られなくなっていたはずだ。二人とも無事だったのは、この場にいるみんなの、人間たちの思いやりのおかげであって、その気持ちは尊い。
だから人は時に、思いも寄らなかったもう一つの選択肢を、たまーーーに掴み取ることができる。端から見れば馬鹿げた正義感からくる、後先考えていない行動だったかもしれない。そんなお馬鹿さんに与えられた唯一の活路を、たまたま運良く絡め取ることができただけかもしれなかった。
……でも、こういうのもたまにだったら悪くない。俺の胸でわんわん泣きじゃくったまま、くっついて離れない柚葉の頭を、俺はゆっくり何度も撫でてやる。
お前が実のお母さんを大事に思っていたように、大して関わり合いの無い下級生を大事に思ったように、花壇の花を大事に思ったように、お母さんから貰った傘を大事に思ったように……俺もこれから先、柚葉を大事にしてやりたい。
山の穴だって、傘で塞ぐことができたんだ。自分には何も無いと思っている柚葉の穴だって、俺が埋めてやる。
了
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