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ーーあぁ、俺はこれからどうなるのだろう。意識をはっきりとさせたまま、この穴の中で一生を彷徨うのだろうか。歳を取るのだろうか。柚葉と交代して、孤独のまま死ぬのだろうかーー。
……思い直してみると、そんなのは絶対に嫌だった。俺は柚葉を助けに来た。
でも、俺がまた穴に落ちたとなれば、今度は柚葉がその身を犠牲にして、俺を助ける可能性もある。永遠に終わらないループ。雨だっていつかは上がる。俺たちだってこんな、不思議かつ馬鹿げた穴の、クソみたいなお遊びに、付き合い続けるわけにはいかなかった。
俺の体が表の世界から完全に消え失せる瞬間、俺の脳裏に、一世一代の閃きが、パッと浮かんだ。俺はその希望に賭けることにする。俺は両手を上げ、傘の取っ手に付いているスイッチを、親指でグッと押し込んだ。そのアクションで、傘地が円形にバッと開いた。俺は両手で傘のハンドルを、ギュッと力強く握り締めた。
……傘地は、今にも俺を取って喰おうとする穴より、大きかった。ワンタッチ式で、しかも大人用のもので本当に良かった。傘は穴を上から覆うように広がっていた。露先が地面に食い込み、俺の体は穴の中にありながらも底には落ちず、宙ぶらりんの状態に留まっていた。蔓に掴まるターザンのようだった。
「宏人くん……」
その声を受けて視界を下ろすと、そこには柚葉が立っていた。意外と穴は浅く、俺の足で柚葉のことを蹴ってしまいそうなほど、距離が近かった。
おいおい、頑張ればこの穴から自力で脱出できるんじゃないか、と思ったが、誰か他の子どもが来なければ、この穴は開かないのだろう。柚葉の足元には白骨化した人間の死体が、無数に散らばり、積み重なっていた。ここから脱出できずに死に絶えた、過去の子どもたちだろうか。命のある人間しか飼わないというルールのようなものが、この穴にはあるようだった。そうでなければこの穴は代わりなんて欲しがらず、とっくに子どもを閉じ込めるのをやめているはずだった。
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