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「柚葉、どうだ! 俺、お前のことちゃんと助けに来たぞ!!」
柚葉は鼻を啜り、泣いていた。俺にはその涙の意味が、判らなかった。
「ひぐっ……ごめんね、宏人くん。私のせいで……本当にごめんなさい」
「何言ってんだよ! 助けに来てって言ったのは、柚葉だろ?」
「……うぅっ……言ったけどぉ……何で来ちゃうのさぁ……」
「いやいや、意味判んないし! 助けに来いって言ったり来るなって言ったり……お前、やっぱ変なやつだな、ははっ!」
柚葉は服の袖で涙と鼻水を拭うと、泣き腫らした赤い目で、俺を見上げた。
「……うぅっ……だって、ここからどうやって二人助かれば良いのか、判んないんだもん」
「何言ってんだよ! お前が俺にしがみ付いて、それで……」
そこまで言いかけて、俺は頭がクラクラしてきた。確かに。その後俺たちは、誰に引き上げてもらえば良いんだろう。ここに来るまでに大人や警察とすれ違うことは無かったしーー助かる方法が、見当たらない。
……俺は呆然とし、言葉を失ってしまった。手がどんどんと雨水と汗で滑り、力が緩んでいく。まずい。何か策を考えなければ、何かーー。
すると握りしめていた傘が、急に上部へと引っ張り上げられる気配がした。
「!? ……柚葉! 俺に掴まれ!!」
「えっ!?」
「い、良いから早く!!」
「……うん!」
柚葉が俺の足に飛びついた。
元々この穴は、もっともっと深かったのだろう。だけど今では、子どもたちの骨の体積で、穴底が浅くなっているようだった。心の中で俺は手を合わせ、それと同時に亡くなった子どもたちに感謝した。柚葉を俺の手の届く位置に押し上げてくれて、ありがとう。俺は片手で、柚葉の体が離れないように、しっかりと抱きとめた。
外から掛け声が聞こえていた。
俺たちは傘ごと引っ張り上げられ、ようやく表の世界に、再び着地することができた。まるで俺たちは絵本の、大きなカブのようだった。
俺は今しがた落ちかかった穴に目をやると、それはゆっくりと縮んでいき、プンと虫の羽音みたいなものを立てて、閉じて見えなくなった。
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