山の穴

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「宏人くん、何か怖いことになっちゃったね」  俺が今回の事件について考えごとをしていると、隣の席の根本(ねもと)柚葉(ゆずは)が話しかけてきた。 「怖いか〜? ……まぁ、俺たちは大人しくしとこうぜ」 「そうだねぇ。……でも安西くん、可哀想じゃない? 吉田くんを探しに山に入って、居なくなったみたいだし」 「そんなの自業自得でしょ! 警察に任せるのが一番だって」  我ながら情けない発言だとは思ったが、これをきっかけに次々生徒が山に入って、二次・三次災害となれば、余計に問題が大きくなる気がした。  ……でも、一人居なくなった代わりに一人が出てきたんだから、この場合は一次災害で済んでる?と、またややこしい疑問が頭を巡った。  すると柚葉が、俺の顔色を伺うように言った。 「……ねぇ。もし私が居なくなったら、助けてくれる?」 「えっ?」 「うぅん! なんでもない……」  この子は一体、何てことを言い出すんだ。  根本柚葉が変わったやつだってことは知っていた。いつも同じトレーナーを着ていて、髪の毛もボサボサで、貧乏の子だってみんなからからかわれていたけど……俺はそんなのどうでも良かった。彼女は笑うと……結構可愛かった。  一度花壇の花を六年生の男子数名がふざけて抜いたとき、柚葉はその小柄な体に似合わないほど、迫力のある怒り方をした。果敢(かかん)に上級生たちに立ち向かって行く姿に触発されて、俺もバカたちに向かって一緒に抗議したことを思い出す。 「お前、よくそんな背格好(タッパ)でグイグイいくよな〜」と笑うと、柚葉も「私には何も無いからね〜」と笑った。何じゃそりゃ。変なやつ。  それから俺たちは、仲良くなったのだ。  ーーだから、安西聡が次の日に山から下りてきて、今度は根本柚葉が姿を消したと聞いたとき、俺は彼女が自身に宿る溢れんばかりの正義感に、突き動かされたことを悟った。
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