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柚葉は山に入る前、言っていた。
「もし私が居なくなったら、助けてくれる?」
そのときも俺は、何も言えなかった。
……でも言葉なんかではなく、俺は行動で示してやる。心配すんな。俺がお前を絶対に助けてやるからな。俺が絶対、お前を救い出してやるから。
どのくらいの時間が経過したのか、時計を持っていない俺には判らなかった。
それでも関係なしに俺は山に入り、獣道を突き進んでいく。途中で傾斜と泥濘が相まって足を取られ、転びそうになったが、何とか持ちこたえた。
雨粒が目に入り、ただでさえ悪い視界が、より一層ぼやけて見えた。足が重い。体は冷え、孤独による心細さに、どんどん押しつぶされそうになっていった。
山の中腹辺りで俺は、自身に湧き上がる恐怖を退ける意味も込めて、柚葉の名前を叫んだ。
「おーい! 柚葉ーーー! どこにいるんだーーー! 返事してくれーーーー!!」
……応答は無かった。なおも俺は、柚葉の名前を叫ぶ。お前は【自分には何も無い】と、俺と一緒に上級生へ立ち向かったとき、言っていた。でもそれは違うぞ。お前には俺がいる。いくらお前を呼んでも返事がないのなら、しつこく俺が、何なら一生分まとめてここで、名前を呼んでやる。
ーーだから、返事をしろ、柚葉!
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