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依然として地面を叩く雨粒の音が、永遠を錯覚させるように鳴り止まなかった。
木々が開け、幾分見通しの良い平地に、俺は辿り着いていた。
「宏人くん……」
その中で俺は、確かに柚葉の声を聞いた。消え入りそうな声だけど……確かに、柚葉の声だ。俺は濡れた顔を一度手で拭い、周囲を見渡すと、駆け出した。
「柚葉! どこにいる!? もう一回返事をしてくれ!!」
「……宏人くん……ひろ……」
俺はその場に屈み込み、片耳を地面に当てた。まだ声の発生地点は遠い。俺は顔も手も泥で汚しながら、なおも駆け続けた。
ーーしばらく足を動かした。すると俺は、前方数十メートルに、何かが落ちているのを発見した。俺はその細長い物に近付く。ーー傘だ。柚葉が本当のお母さんにプレゼントしてもらい、大事そうに持っていた、黄色で花柄の傘を発見した。それは持ち主不在で、寂しげに地面へと横たわっていた。主人の帰りを、今か今かと待ち望んでいるようだった。
「柚葉、お前! どこにいるんだ!?」
俺の胸中で、期待と不安の渦がぐるぐると巡っていた。これを発見できたということは、柚葉は近くにいる? でも、柚葉が大事な傘を手離して、どこかに行くはずが無い。
ーーやはり、穴なのだろう。
俺は傘を拾い上げ、雨に濡れ、泥に塗れたそれを、じっと見つめた。
「宏人くん!」
傘を拾ったことが合図のように、急に柚葉の声が、耳元で叫ばれたように大きく聞こえた。
俺は驚き、その場でたたらを踏んだ。
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