山の穴

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 ……気付けば片足が、ずぶりと地面に溶け込んでいた。えっ? 俺はまるで、ケーキを切り裂くナイフのように、ずぶずぶ地面へと沈んでいく。まるで底なし沼のようだ。次第に俺は、膝まで沈む。沈む度に、柚葉の声が俺の鼓膜を震わせた。 「柚葉! おい、どこにいるんだ!!」 「ごめんね、宏人くん。私の身勝手な行動で、きみを巻き込んじゃいけなかったよね……」 「柚葉! 謝るなって!! お前一体、どこにいるんだよ!!」  俺は傘をバットのように持った態勢のまま、地面に沈んでいく。……すると腰まで沈んだ俺の体が、急にストップした。 「えっ? ……何、どういうこと?」  俺が独り言のようにぽつりと呟くと、柚葉が言った。 「……私、穴に落ちたの……」  俺の体に纏わり付いていた地面の泥が、マジックみたいにパッと、急に物体消失した。ーーいや、穴だ。俺の体をすっぽり飲み込むほどの直径で、黒い穴が出現した。やっぱり爺ちゃんの言っていたことに、間違いはなかったんだ。まるで俺はコミカルなアニメみたいに、宙に浮いていた。時間差攻撃だ。あと数秒後に、俺はこの真っ黒で真っ暗な穴に落ちるのだろう。雨とは違う寒さ……いや、怖気が背筋に走った。 「宏人くん、来ちゃだめっ!!」  柚葉の声が、穴の中で反響した。もう遅い。俺の金玉がきゅっと縮み上がった。止めていた時が動き出したように、俺の体はグンと、穴の中の見えない怪物に引っ張られた。
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