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ある時、一人の男の話を聞いた。 男は、午前3時の、誰もいないコインランドリーにいつも通っていたが、 ある日、乾燥機のドラム缶の中から出て来た、美しい華奢な女性を目撃する。 それから午前3時に、コインランドリーに行く度に、その女性はドラム缶から出てきた。 男は顔見知りになり、徐々に彼女に会いたくて、午前3時にコインランドリーへ行くようになる。 だがある時、彼女は、一緒に乾燥機のドラム缶の中に入って、男に何処かへ行こうと言うが、男は怖くなって断ってしまう。 誰もいないコインランドリー。 午前3時。 男の、誰もいない人生がまたはじまる。 その後日。 コインランドリーは無くなり、入っていた建物も無くなり、その場所は、更地になってしまった。 彼女は、コインランドリーが無くなることを知っていて、別れたくなくて、自分を誘ったのかもしれない、と男は思った。 それからまた男は、誰もいない孤独な生活を続け、しばらくしてマンションを引っ越したが、また、新しい住まいの近くにあるコインランドリーへ、午前3時に行くようになる。 ある日、男はつい、乾燥機のドラム缶の中を覗きこんで、彼女を懐かしむ。 すると、急に後ろにあの彼女がいて、不敵な笑みを浮かべていた。 「回さないで!」 と男が叫ぶと、 彼女は、 「こんなとこに入ろうとしちゃダメよ。そこは私の場所なんだから」 と言って、男の身体を外へ出し、自分が中に入っていく。 「また会えるかな?」 男が聞くと、 「午前3時に待ってるわ」 と微笑みながら言うと、 何故か自動的に、乾燥機のドラム缶が回転し、その中で彼女は消えていった。 男は嬉しくなって、また午前3時に、ここに来ようと思った。 その時、たまたま外を通りがかった新聞配達の少年は、とっくに廃墟になっているコインランドリー跡地の中で、嬉しそうにしている男が不思議でならなかった…。 聞いた話は、そこまでだ。 自分の物語だった。 ここは、午前3時の 誰もいない 真夜中のコインランドリー。 今日も彼女は現れる。 ドラム缶の中から。 背が高く、スタイルはかなり良いが、折れそうなくらい痩せた華奢な体つき。 でも顔は信じられないくらいの美人。 美しい顔を微笑えませ、優しく話しかけてくれる。 ふたりで一緒にどこかへ行こう 彼女の声が聞こえる。 また彼女に会えた。 いつまでも 永遠に 誰もいない人生に 彼女だけが そこで微笑んでいた。 (終)
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