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第二十一話:魔王の王妃
アロゥの微笑みの意味もわからず言葉を失っていると、
「あらぁ?
やっぱり内緒になさってたのねぇ、アロゥ様ったら……。
う、ふ、ふ、驚いてる……。
つまりねぇ、あたしは一三六五六番王妃で、こっちは一三六五七番王妃なの。
毎回いちばん下の王妃二人が新しい子の世話をすることになってるのよねぇ」
「ねぇ、あなたまだこっち来てからアロゥ様と何もシてないんでしょう?
ふ、ふ……もっと驚くわよぉ……。
魔界での魔王との交わり……それはもう、上の世界じゃ絶対に味わえない、想像を絶する、この世のありとあらゆる快楽を全部集めたってかなわない、一度口にしたらもう二度と離れることなんて出来ない、禁断の媚薬……。
今夜が楽しみねぇ?キャミル。
新婚初夜だけはアロゥ様を独り占めできるのよ……羨ましいわぁ。
あぁ……思い出したら……もう……我慢できない……」
メイド姿の二人の王妃がキャミルの耳元で淫靡な笑みを浮かべ、自らの下腹の辺りをまさぐりながらささやいた。
「アロゥ様が長旅からやっと帰ってきたっていうのに、私たちだけ相手してもらえなかったんだもの……もう……限界……」
「いくら姿も挙動も本物そっくりだって言っても、魔法で作った変わり身なんかじゃ全然物足りないのよ……あぁ……アロゥ様ぁ……」
息を荒げ床に膝から崩れ落ちた二人は、目の前のアロゥを物欲しげに見上げながらくぐもった吐息を漏らし始めた。
「ちょ……やめてよ!?
こんな人前で何やってんのよ!?
何よこれ……なにこれ何なの……!?」
その光景に思わず目をそらし遠くの観客席を見回すが、そちらでも同様の淫猥な空気が漂い始めていた。
「な……ちょっと……!
アロゥ!?
一体どうなってんのよ!?
それに第何番王妃とか……あれなんなの!?
これ……あたしたちの結婚式だよねぇ!?
あたしアロゥの妻になったんだよねぇ!?
あたしが王妃様なんだよねぇ!?」
アロゥに救いを求めてすがりつくと、
「はは、何を言っているんですか、キャミル。
当然ではありませんか。
これは私とあなたの婚礼の儀であり、あなたはこの儀式をもって私の妻、王妃となるのです。
確かに王妃の数がいささか多数であることは驚かれたかもしれませんが、王妃の順位などは輿入れ順に付けた形式的なものですし、何よりもここは魔界で、私はその統治者たる魔王なのです。
魔界に満ち溢れる闇の魔気をいくらでも自由に操ることができますし、それによって妻が何万人いようと同時に同じだけ愛し満足させて差し上げられますから、そんなことは大した問題ではありません、お気になさらずに」
相変わらずの微笑みをキャミルに返した。
「は…………え……と……あれ……?
あたしがおかしいのかな……。
王妃がいっぱい……?
でも大した問題じゃない……?
あれ……なんか……何言ってんのかわかんないだけど……」
どうなってんの……わけわかんない……。
ひどく混乱しているキャミルを尻目に、
「さぁ!!
皆様もすっかり火照ってきたところでさっさと式を進めてしまいましょう!!
私ももう限界です!!
ではまずは王妃代表、第一王妃ユリアル・ミサ・フェリエラ様よりお言葉を!!」
アロゥを横目でちらちらと伺いながら、顔を紅潮させた司会の女が式を進行し始めた。
もしかしてこの司会の人も……王妃……?
なんなのよどうなってんのよ……。
だって結婚って愛し合う二人が結ばれるってことで……あたしのこと愛してるってあたしを妻にするって……。
それなのに……あたしだけじゃ……なかったの……?
あたしだってもう元の世界には戻れないって本気で覚悟決めて……この人しかいないって……二人で一生涯を添い遂げるんだって……。
なのに何これ……意味わかんない……何これ……。
なんで……なんで……なんで……なんで……。
「……これでまた新しい遊戯が増えるな!
新たなる王妃に祝福を!!」
ほとんど体を隠す布地も無いようなあられもないドレスで現れた、キャミルよりだいぶ歳下に見える恐ろしく美しい第一王妃が、祝辞を述べるとキャミルの方へ盃を掲げ一息に飲み干し、アロゥに濡れた目を向けて一礼すると舞台を降りたが、キャミルにはもはや何の言葉も姿も届いてはいなかった。
「おや……緊張しているのですか?キャミル。
大丈夫、式はすぐに終わりますから」
いつの間にか体が小刻みに震え始めているキャミルに気付き、アロゥが優しく声をかける。
「この城の暮らしにもすぐに慣れますよ。
上の世界とは少々常識が異なりますが、ここにおられる王妃たちも皆、あなた同様地上からお連れした方々です。
すぐに打ち解けて親密になれることでしょう。
これまでも着いてすぐには大きなご不安を抱え、時には強く抗う方もおられましたが、初夜を越えれば皆様すっかりご満足頂き、今ではすっかり王妃らしく性の奥義をお極めになろうと日々身を尽くしお暮らしなさっておりますよ」
アロゥの手がそっとキャミルの手を握ろうと伸ばされたが、思わずびくっと怯えてそれをかわした。
「はは、意外とこういう場には弱いのですね、キャミル。
またそこがかわいらしく、いとおしく思えますよ。
まぁ式などは前座の余興に過ぎません。
早々に済ませて二人の初夜を迎えましょう」
アロゥは優しく笑って再び正面の観客席で歓声と吐息を上げる王妃たちに向き直った。
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