頂きに踏み入るべからず

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ㅤ大学時代の友人ら三人と紅葉を楽しむべく、初めての山登りへ出かけようということになった。 ㅤ八合目まではケーブルカーで、その先の十合目、つまり頂上までのコースを歩き美しい山々の景色を堪能する予定だ。 ㅤシューズにジャンパー、薄手グローブに帽子といった基本装備も抜かりなく、準備は万端。 ㅤ当日、麓の駅でケーブルカーに乗り込む際、携帯してきたバックパックの折りたたみ傘のせいなのか「傘の方々は頂上まで決して上がらないように」となぜか強く駅員に言われ困惑した。 ㅤ上は風が強いのだろうか。 ㅤしかし差さなければ問題ないはず、と顔を見合わせた我々の見解は一致していたらしい。カッパを持ってきた者もいる。 ㅤ駅員への返事もそぞろに我々はケーブルカーへと乗り込んだ。予定通り頂上を目指そう。 ㅤ八合目へ到着すると「この先、傘落下多発!危険!注意!」の張り紙がでかでかと、まるで出迎えの垂れ幕のように待ち構えていた。 ㅤずいぶんと傘の落し物が多いようだ。 どうやって落とすのだろう。やはり強風に飛ばされるのか。 ㅤけれど今はそんなことを気にしていても仕方がない。 ㅤ心配した天気は風も穏やか、小雨さえ降っておらず、晴れ渡る空に白い雲。日差しが眩しい。まさに登山日和。 ㅤ途中、眼下に広がる赤に黄金の色彩も見事なものであったので、山頂へと逸る気持ちが足取りを軽くする。 ㅤこれなら傘は傘でも日傘を差すべきかもしれんな、そう冗談めいて笑いつつ、九合目へと向かい我々は歩みを進めた。
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