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美那が現れなくなって、三ヵ月。以前と変わらず、僕は毎日公園に足を運んでいる。午前3時。風が吹き、歩き回るかの如く、揺れ動く木々。奇声を上げ、この世の終わりを告げる鳥。彼女を失ってから、この古びた遊び場もより一層死に近付いた気がする。
彼女がいつ訪れても良いように、プリンとチーズケーキを用意する。ベンチに横一列で並ぶスイーツ。傍から見ると、僕は不審者だろう。
あの日、呼び止めておけば良かったのだろうか?僕の本当の気持ちを伝えておけば――好きだ、と言えたなら、苦痛に苛まれることもなかったのだろうか?
「いや、どの道を選んでいたとしても、後悔だらけだ」
苦が湯水のように溢れ出す。きっと、正解などなかったのだろう。
美那に会いたい、切望。触れたい、欲望。生きることへの、絶望。
もう、幽霊でも良いんだ。美那に会えさえすれば。それだけで、僕は。
「好きだよ。君のことが大好きだったよ」
振り向いた。誰もいない。幻聴か?
「……気のせいか」
僕の方こそ、好きだった。ずっと、午前3時が続けばいいと思っていた。美那と過ごす時間が僕の日々を生きる楽しみになっていた、のに。
「好きだよ、美那」
呼び止めて、追いかけて、獅噛みついて、嫌だ行かないでって縋って、美那を困らせれば良かったのか?美那が我慢したのに、僕が言うわけにはいかないじゃないか。
「好きなんだよ、美那」
嫌だ、止めて、逝かないで、離れないで、ずっと僕の傍にいて、僕に笑いかけてよ。
「僕をおいていかないでよ、美那ぁ」
伸ばした手は、もう彼女には届かない。
午前3時。僕は彼女を待ち続ける。
塩辛い、あの日の味が口内に広がった。
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