姫リンゴの腹の虫

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姫リンゴの腹の虫

「あのぉ……すいません、リンゴジャムデニッシュって売り切れなんですか?」  目的のものが見つからなかったので、私はたまらず購買のおばちゃんに尋ねた。 「ええ、ここにない物は全部売り切れですー」 「あ……そうですか……。ありがとうございます……」  陳列されていないだけで奥に残っているかもしれないという淡い期待を抱いたものの、にこやかにそう返され、私はしおしおと引き下がるしかなかった。  そして、心の中で地団駄を踏む。  くう~っ、残念だ! 実に残念!  部活前に購買で売っているリンゴジャムデニッシュを食べるのが、私のルーティンだったのだ。  安っぽいパサパサのデニッシュだが、果肉入りの濃厚なリンゴジャムが中にたっぷり。  初めて食べた時、あれ?これアップルパイなんじゃね? と錯覚するほどの食べ応え。  舌が一目惚れ、略して舌目惚れをしたのだ。舌目惚れのムニエルなのだ。  ムニエルはともかくとして、アレを食べないと力が出ない。  何より、部活前のおやつにリンゴジャムデニッシュを食べることが習慣化したルーティンなのだから、調子が狂うことは確かなのだ。  ……なのだが、腹が減っているのも確かだ。  他のもので空きっ腹の埋め合わせをしようと、売れ残りのパンを物色していると──。  バッグの中でスマホがムームーと鳴った。
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