姫リンゴの腹の虫

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 取り出してみると、我が美術部の部活仲間である彩香(あやか)ちゃんからのメッセージ。 『【悲報】急なバイト入る。部活行けず【解せぬ】』  私は『ありゃりゃー』と返事をして、ご愁傷様系のスタンプとお疲れ様系のスタンプを立て続けに送った。  彩香ちゃんは同じ2年唯一の部活仲間で、クラスは違う。  間も置かず、『どうしよ、課題終わらん』という涙目絵文字の返信が来た。  課題とは、部活での個人作品制作のことだ。何気に提出期限が迫っている。 『大丈夫、部長なら許してくれる』  とフォローしつつ、確証はないので『多分』と付け足した。 『千雪(ちゆき)先輩が許してくれたところで、締切日はやってくるうううう』  彩香ちゃんの縋るような返事に『まぁ確かにそうだ』と答える。  彩香ちゃんは部長のことを役職名ではなく、下の名前+先輩と呼ぶ。彩香ちゃんだけじゃない。私以外の後輩部員は皆そうだ。  部長のことを“部長”と呼ぶのなんて私ぐらいだ。  どうしてかって?  それは──。 『そういえば、あずあず』  と、手元のスマホのトーク画面をぼんやり眺めていると、彩香ちゃんからの新着メッセージ。 『今日部活休むの私だけじゃないんだぽん』 『え?』  “だぽん”という語尾は何だね君、え? と説教してやりたかったけど、それどころじゃない。  立て続けに送られてきたメッセージには、今日部活を休むことになった諸後輩や諸先輩方の名前と、通院、歯医者、バイト、レポート、家の手伝い、イベント、〆切、などなど、それぞれの事情が書かれていた。  それを目で追っていくうちに……。  ……あれれ?  あれあれあれ?  なんか嫌な予感がしてきたぞ。 『とゆーわけで、あずあず』 『はい』 『あずさ殿、今日は千雪先輩と二人きりです!』  ──時が止まった。
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