姫リンゴの腹の虫

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「──あ、戸波さん」  ドッキリ!  やーもう、違う意味でドッキリ!  だって美術室に行くなり、部長が自分のイーゼルを前にしながら、入口でおずおずと室内を覗き込むだけの怪しい(いち)生徒でしかない私に目線なんかくれるんだもん。  名前まで呼んで、話し掛けてくれるんだもん。 「よかった、来てくれて。ほとんどの人が休みだって言うからさ、ポツンと一人で活動するとこだった」 「あっ……はい! 私も連絡聞いてびっくりして……」  やったー!  普通に会話ができた!  それだけで100点!  しかも「よかった」って……。  来てくれてよかったって……!  それだけでもう、明日はホームランだ……。  ……などと、目を潤ませながら密かに感動していると、部長が微かに目を伏せ──。 「週1の活動なのにピンポイントで一挙に休まれるとさ……。僕って部長として人望ないのかなって落ち込んでたとこなんだよね……」 「え!!」  そんな!  顔文字のしょぼーんみたいな、そんな可愛い表情を部長が……!  しかも、そんなアンニュイにしおれた声を出されるなんて……!  部長はアレですか!  大正時代で言うところのサナトリウム的な薄幸病弱美少年ですか!  ぎょぎょっとしながらも萌え死にしそうになって、心の昇天が止まらない。  私の魂は幾度となく生死を繰り返し、転生している。 「そんなことないですよ! 皆めいめい事情や用事があるからであって……。そうでもなきゃきちんと連絡入れたりお詫び入れたりしないですよ! それに課題のこともあるし……。ホントは来たがってましたよ? 彩香ちゃんとか」  わたわたとしながらも、部長に人望がないなんてとんでもないとばかりに必死で励ます。 「戸波さんは優しいね。ありがとう」 「……、い……いえいえ、そんな……」  部長の笑顔と言葉に、息が止まりそうになった。  ちょっとやだ、こんな所で私、(物理的に)死にたくない。
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