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バリア
――数日後のある日、事件は起こった。
その日、結局雨は降らなかった。
天気予報では午後から雨かも、と言っていたが外れたらしい。
夕方でも燦々と日光が降り注ぐ道を、出番の無かったビニール傘を片手に僕は帰っていた。
そんな日に僕は再び神立旱と出会った。
「あ」
十字路の真ん中で彼女は僕を見つけて。
僕は彼女に手を挙げて応えようとして。
「え」
それは、本当に突然。
彼女はその両目から大粒の涙を流し始めた。
「……え、いや、え?」
あまりに唐突な展開に慌てた僕は、しゃがみ込む彼女に「どうしたの」と訊く。
「ポチ太郎が、死んだの」
彼女の丸まった背中から、掠れた声と途切れがちな言葉が聞こえる。
「もう、寿命だったんだって。お医者さんも、そう言ってた」
「……そっか」
「小学生の頃から、一緒、だったんだよね」
「……それは、悲しいね」
慰めの言葉は違う気がして、僕はそんな何でもない反応しかできなかった。
「うん、悲しい」
神立は僕の言葉を繰り返して鼻をすする。
「……でも、もっと悲しいんだ」
「もっと?」
彼女は小さく頷いて、短く息を吐いた。
「お母さん、変わっちゃった」
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