僕のお姉ちゃん

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僕のお姉ちゃん

僕のお姉ちゃんは十年前に車に轢かれて死んでしまった。 運転手は認知症を患った八十二歳の御老体で、裁判の結果は敗訴。運転手の過失は認められなかった。 事故当時は行き場のない憤りを運転手やその家族にぶつけてみたりもした。 けど、いくら心の内を言葉にしたってお姉ちゃんが帰ってくるわけでも自分達が満足できるわけでもなく、残るのは虚しさだけ。 やがて怒りは冷め、僕以外の残った家族はこんなことをポツリポツリと語るようになった。 「仕方がなかった、仕方がなかったんだよ。なぁ雄大、残った俺たちは雪の分も前を向かなきゃいけないんだよ」 「ねぇ雄大、あの子は私達の中で生き続けてるの。お母さんも辛いよ?でも、立ち止まったままだったら雪が悲しむだけだから……」 両親は心身ともにボロボロだった。 そんな両親の一縷の希望になれたらと、僕は勉強を頑張って東京の立派な大学に進学した。 独り立ちした日、三人で肩を抱き合って泣いたあの日から僕は生まれ変わった。塞ぎ込みがちな生活から一変して、無理をしてでも人と喋るようにした。 友達がたくさん増えて、彼女もできて、幸せな毎日を過ごしていた。
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