4 尋ね人尋ねます

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地元の大学に進学した俺は、あてもなく街を歩くようになった。 地元だけではなく、たまに地方を旅行したり、東京へ遊びに行ったりするたびに繁華街を歩いた。 少しでも大和に似た人を見つけると、すぐに後を追った。 けれどそのどれもが人違いで…。 大学時代にゼミで作った試験的なブログが何故かヒットして、気が付いたらそれで稼げるようになっていた俺は、結局一度も就職活動をしないまま大学を卒業し、いわゆるブロガーってやつになった。 これ一本で食べて行くなんて無謀過ぎるだろう。 だけど大きく育ったこの世界を終わらせるのも寂しいし、毎日見に来てくれる顔が見えない人達との交流も楽しくてやめられなくなっていた。 「世界のはじっこ」というタイトルには、大和への想いが込められている。どこにいるかわからなくても、大和がいるのは必ずこの世界のどこかだ。そこがたとえ世界のはじっこだったとしても、俺はいつか必ずそこにたどり着くよ。 ブログは毎日記事を更新しないと、来てくれる人がいなくなってしまう。副職でやっている人や、フォロワーを増やすのが目的の人は、自分で記事を書かずにライターを使っている。いくらかのお金を出して、自分のブログの記事を書かせるのだ。 俺はブログを始める時、絶対に記事は全部自分で書くと決めていた。 そして毎日10本、必ずアップすると決めている。 ネタ切れ?そんなのしょっちゅう。 病気になったら?それはむしろラッキー。実況中継できるから。 時には腱鞘炎と肩こりに唸りながら、それさえもネタに記事を書く。 このブログには俺の病歴も詰まっている。カルテみたいなもんだな。 その中で、最初の頃からずっと続けている記事がある。 それは『尋ね人尋ねます』というタイトルで、俺が「突然いなくなった友達」を探しているという記事だ。もちろん名前も特徴も出さない。 「現代のこの日本で、完全に姿を消すことが果たしてできるのか」というテーマで書き出したのだが、反響がすごかった。 「私の友達も消えました」とか「重大な犯罪者の家族は人権保護の為に名前を変えて警察に守ってもらえる」とか「顔や指紋を変える裏ワザ」とか。 ちょっとヤバめの情報も含めて、色々教えてもらい、とても有意義な内容に育っている。 中には直接メッセージを送ってくれる人もいる。 「天涯孤独なイケメンYくん」というザックリした輪郭しか伝えていないのに「もしかしたら」と知ってる情報を教えてくれるのがありがたかった。 今の所全部空振りだけど。 一ミリでも可能性があるなら、俺はどこにでも探しに行く。 今日のノルマの記事を書き終えて時計を見ると、もう六時だった。 だいぶぬるくなった三杯目のエスプレッソを飲み干して、俺は席を立った。 レジへ向かうと、すずきくんがにこやかに対応してくれる。 男にしては白すぎる綺麗な細い指が、また俺の目を奪った。 「何か?」 「いや…なんでもない」 指が綺麗だと思って、なんて言ったら俺は完全に変態だ。 「ありがとうございました」 いつもながら心地よい声だ。 大人になった大和も、こんな声をしてるのかもしれない。 まだ声変わりして数年しかたっていなかった、あの時々かすれる高い声を思い出していた。 きちんと頭を下げて送り出してくれるすずきくんに「ごちそうさま」と声を掛けてドアを開けた。 今日は金曜日だ。俺は自宅とは反対方向の駅へ向かって歩いた。
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