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彼と会えない週末を、僕は彼のブログを読んで過ごした。
相変わらず、すごい勢いで更新される記事を追いながら、彼は今どんな場所でこれを書いているのだろうかと想像する。
膨大な量の記事の中に、埋もれそうで埋もれない記事を見つけてしまったのは三か月前のことだった。
それは『尋ね人尋ねます』というタイトルで、突然消えた友達を探しているという内容だった。日付を見ると、このブログを始めてすぐの頃から不定期ながら続いている。
胸が苦しくなった。心臓がドクドクと大きな音を立てて、自分ではどうにもできなかった過去の後悔が押し寄せてくる。
君が、探してくれていた。
君も、まだ僕をおぼえてくれている。
だけど君が僕を見つけることは、永遠にないんだ。
望みすぎちゃだめだ。
毎日会えるだけで十分なはずじゃないか。
僕は狭いワンルームの天井を見上げながら、零れそうなる涙を堪えた。
そして、月曜日。
『Café Pendule a couco』
午後三時。
今日もコーヒーと甘いデザートの香りで満たされた店内に、鳩時計の鳴き声が響いた。
僕は急いでドアに向かう。
待つほども無く、カウベルの音を響かせて君がドアを開けた。
「こんちは」
真っ直ぐ僕に向かって来る君に「いらっしゃいませ」と頭を下げた。
その直後に、一度閉じたドアが再び勢いよく開く。
『ガランッガランッ』と強めに鳴ったカウベルの音に、彼も一緒に振り返るとそこには僕が二度と会うはずがなかった人物が立っていた。
呆然と立ちすくむ僕に向かって、その男が何かを言おうとした。
が、それを遮るように先に声を上げたのは、後から入って来た連れの男だった。
「へぇ、こいつだね、本当にいたんだ」
その顔を見た瞬間、僕は全身の血が下がって行くのを感じてふらつきそうになる。
その男の言葉の意味はわからなくても、この男が誰なのかはすぐにわかってしまった。
僕は咄嗟にここで騒ぎを起こしてはいけない、と思い、とにかく彼を先に席へお通ししなければと思った。
「あの、森谷様、こちらへどうぞ」
先へ立って歩き出そうとする僕に
「ちょっと待てよ。お前と話がしたいんだけど」
と大きな声を上げる若い男。
彼が振り返ってまじまじとその顔を見ている。次に、僕の顔を。
そう、彼が驚くのも無理は無かった。
その男と僕の顔は、双子のようにそっくりだったのだから。
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