1 「Café Pendule a coucou」

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カウベルの音を響かせてドアを開けると、いつもの笑顔が出迎えてくれた。 何も言わなくてもお決まりの席に真っ直ぐ俺を案内してくれる彼は、もうすっかりこの店の顔になっている。 俺よりずっと若く見えるその店員は、オーディションでもしているのではないかと思うぐらい見た目の良い男子店員を揃えたこのカフェの中でも、群を抜いて綺麗だ。 男に向かって「綺麗」と言う言葉を使うのが正しいかどうかは、知らない。 家から歩いて十五分ほどのこのカフェがオープンしてから通っている俺だけど、この彼と初めて会ったのは半年前だ。 第一印象は、とにかく「綺麗」だと思った。 真っ白い肌に、グレイがかった茶色の髪。はっきりとした二重瞼に、髪と同じく薄い色の長いまつ毛が優しげな頬に影を落としていた。そして、その大きな瞳は淡いグレイだ。 「SUZUKI」という名札の上に赤い文字で「NEW FACE」と書かれた彼は、緊張のせいか手も声も震えていて、ちゃんと仕事が続けられるのか心配になるほどだった。 「大丈夫?俺相手にそんなに緊張しなくていいよ。なんならオーダーも聞かなくていいし。いつも同じだから、この顔見たらダブルエスプレッソを持ってきて。あと、フレンチパンケーキ」 「は、はいっ!すみません」 真っ赤な顔をして去って行くその後ろ姿が、俺の知っている奴に良く似ていて驚いた。 顔は全然違うのに。 そんなわけないのに。 骨格が似ているせいか、声も似ている気がする。 そして何より、あのグレイの瞳が。 今時、カラコンなるものがあることは知っている。 周囲を見渡せば、異常にでっかい瞳の女子ばっかりだ。 色だって茶色だけじゃない。青だったり緑だったり、グレイだって珍しくはないのだろう。 「あいつは違う。あの目の色は天然だったからな」 そこで俺はまた思い出していた。いつでもどこでも何度でも、引き出すことができるあいつの面影を。 今頃どこでどうしているのか… 小さくため息を吐いてから、テーブルの上にラップトップを置くと、その電源と同時に自分にもスイッチを入れる。 そしていつものように周囲の声に耳を澄ませた。
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