2 面影

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あいつが俺の前から姿を消してから、八年が過ぎた。 あいつ…御影大和(みかげやまと)は高校時代の俺の親友だった。 大和とは入学してすぐに俺から声を掛けて話すようになった。 色白で細すぎる体。サラサラの黒髪に、黒縁眼鏡の上からかぶさる前髪。自分からは一言も話さない大人しい奴。 俺が一緒にテニス部に入ろうと誘った時はすごく驚いていたけど、最後は「やる」と言ってくれて、それからは毎日一緒だった。 大和はきっと元々は明るい性格だったのが、何かの理由で心を閉ざしていたんだと思う。まるで薄い皮を一枚一枚剥ぐように毎日少しずつ明るくなり、自分から話をするようになった。 表情を隠すためか長くしていた前髪を「うっとうしくなったから」と切った時は、口には出さなかったけど嬉しかった。 「テニスをするのに邪魔だから」と外した眼鏡は、度なしだった。 初めて正面から直に大和のその瞳を見た時のことを、今でも思い出すと少しせつなくなる。 「お前の目って…」 「ああ、うん。ちょっと変だろ。気持ち悪い?」 「いや、綺麗だと思うよ。気持ち悪い訳ないだろ」 俺がそう言うと、大和は驚いたように目を瞠った後で 「綺麗だなんて、言われたの初めてだよ」 そう言って、嬉しそうに笑ったのだ。 その時やっとわかった。大和が隠し続けていたのは、その瞳の色だったのだと。 それから大和は目を隠さなくなった。明るく笑うようになった。 毎日がすごく楽しくて、あっという間に過ぎて行った。 テニス部では二人でペアを組んでいたので練習もいつも一緒だったけど、一度も喧嘩をしたことがなかった。 周りからも「おまえら出来てるだろ」とからかわれるほど仲が良くて、俺はそれを否定しない大和が嬉しかった。 二人とも真っ黒に日焼けして、一心にボールを追いかける日々。 いつの間にかお互いを見なくてもどこにいるのかがわかるようになり、呼吸を合わせる術を身に付けていた。 二人でいる時間が心地よくて、ただ楽しくて。 そんな時間がずっと続くんだと思っていた。 けれど…あの日は突然やって来たんだ。
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