冥界の門が開く日

5/5
前へ
/13ページ
次へ
「紳士のリードでデートに行くのもまた乙ね」  暗闇の中、満月が煌々と世界を照らす。  二つ縛りの髪を揺らしながら、エリーは喉を鳴らす。  難しい言葉を覚えている。年を経るにつれて、エリーの知識はどんどん増えていく。きっと、生前にできなかったことを謳歌しているのだと思う。 「冥界ハ、楽しい?」 「うん!」  三日月のように目を細めてエリーは勢いよく首を振る。 「勉強ハ大変?」 「大変だよ。でもね、たくさん知識を得て、テストで発揮して、いい点数がとれるととても気持ちいいの」  キラキラと輝くエリーの目は希望に満ちている。真っ直ぐ見つめる先には迷いの色はうかがえない。  随分前に冥界の様子を訪ねた時、エリーは同じ目をしながら朗らかに語った。 「冥界では好きな格好をしても誰も何も言わないし、何をしていても、自由なの。罪を犯した悪い人は捕まっちゃうけど、何の罪もなく亡くなった人は好きなように過ごして良いのよ。勉強をしても良いし、遊んでもいいの」  そう語っていた。  享年が8才の彼女は、生前小学校で学びきれなかったことを冥界で学んでいるらしい。  ボクは盛り上げるつもりで上下にジグザグと飛んでみせる。 「今日ダケは皆、無礼講!現世でもタクサン遊ぼうヨ!」  エリーはボクの動きがおかしかったのか、ふふふとお淑やかに笑う。 「最近ハ、日本人でも金髪のカツラとか被って、イツモとは違う格好する人が多いんだって!」 「ふふ……そうね。今更外国人一人が紛れたところで、そういうコスプレって思われるだけだろうし」  言葉を句切って、彼女は後ろを振り返る。 視線の先にはさきほどまでいた外国人墓地がある。 「……まさか、冥界からの来訪者なんて、思いもしないでしょうね」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加