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「紳士のリードでデートに行くのもまた乙ね」
暗闇の中、満月が煌々と世界を照らす。
二つ縛りの髪を揺らしながら、エリーは喉を鳴らす。
難しい言葉を覚えている。年を経るにつれて、エリーの知識はどんどん増えていく。きっと、生前にできなかったことを謳歌しているのだと思う。
「冥界ハ、楽しい?」
「うん!」
三日月のように目を細めてエリーは勢いよく首を振る。
「勉強ハ大変?」
「大変だよ。でもね、たくさん知識を得て、テストで発揮して、いい点数がとれるととても気持ちいいの」
キラキラと輝くエリーの目は希望に満ちている。真っ直ぐ見つめる先には迷いの色はうかがえない。
随分前に冥界の様子を訪ねた時、エリーは同じ目をしながら朗らかに語った。
「冥界では好きな格好をしても誰も何も言わないし、何をしていても、自由なの。罪を犯した悪い人は捕まっちゃうけど、何の罪もなく亡くなった人は好きなように過ごして良いのよ。勉強をしても良いし、遊んでもいいの」
そう語っていた。
享年が8才の彼女は、生前小学校で学びきれなかったことを冥界で学んでいるらしい。
ボクは盛り上げるつもりで上下にジグザグと飛んでみせる。
「今日ダケは皆、無礼講!現世でもタクサン遊ぼうヨ!」
エリーはボクの動きがおかしかったのか、ふふふとお淑やかに笑う。
「最近ハ、日本人でも金髪のカツラとか被って、イツモとは違う格好する人が多いんだって!」
「ふふ……そうね。今更外国人一人が紛れたところで、そういうコスプレって思われるだけだろうし」
言葉を句切って、彼女は後ろを振り返る。
視線の先にはさきほどまでいた外国人墓地がある。
「……まさか、冥界からの来訪者なんて、思いもしないでしょうね」
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