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声のする方を向くと、一つの人型の影が見えた。月の光に金髪の髪色が反射しているのはわかった。街灯の逆行で表情はうかがえないけれど、声色の様子から敵意は無いらしい。
安堵したところでふと気がついた。
先ほど彼は、エリーのことを「冥界からのお客さん」と言った。そして、彼女に対して「大きな一人言」ではなく、「駄弁っている」と指摘した。
「おニーさん、ボクの声聞こえるの?」
尋ねると、若い男性は此方に近付いてきた。赤いTシャツにジーパンを履いて、紺色の腰巻きエプロンに身を包む男性の姿を視認できた。顔の影が退いて、街灯に照らされた面長の顔はやや日焼けしている。どこか日本人離れしているな。彼は肩を竦めると自嘲するように言った。
「人間じゃないヤツの声が聞こえるのは日常茶飯事でね」
「フーン」
ボクが生返事をすると、彼はゴホンと咳払いをして「そういえば今日はハロウィーンだよなぁ」と前置きする。
「俺はすぐそこで店を構えているんだが……今日だけは店内もギャルソンも特別仕様だ。入る?入らない?」
急な問いかけに思わずエリーと顔を見合わせた。
キョトンと首を傾げる彼女の表情は、不意に和らいだ。
ボクらの選ぶ選択肢は一つに決まっている。
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