夜の脱出

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 もよりの駅まで、ゆっくり歩いて30分、急ぎ足でだいたい20分かな。ぼくは今、もっと急いでいるから、15分くらいたっただろうか。  あれ、おかしいな。駅に着いたのに、まっくらだ。まだ9時15分くらいのはずなのに。ストでもやっているのかな。  ぼくがそう、ひとりごとをつぶやくと、なにやらいやったらしいような笑い声とともに、大きなヒゲをたくわえたおじさんの大きな顔が、くらやみから突然出てきたのだった。  それはさながら、おばけやしきの巨大(きょだい)なしかけのようだったので、ぼくは思わずのけぞってしまったが、赤い顔のおじさんは、ぼくがころんだのも気にしないようすで、ただ、ただ、うすきみわるい()みをうかべてきた。  そして、そのおじさんからは、子どものだいっきらいなあのお酒のにおいがしてきた。ぼくのお父さんは、お酒をぜんぜん飲まない人だったこともあり、その慣れないにおいから逃げるようにぼくは、そのもより駅周辺から(もう)スピードで離れたんだ。
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